遂に新釈漢文大系が完結なんだそうですが……

あたしも学生時代にお世話になった明治書院の「新釈漢文大系」がようやく完結を迎えるそうです。全120巻ですか。出版社も、各巻を担当された編著者の方もたいへんな苦労だったと思います。

ところで、こういった中国古典の全集、かつてはそれなりに出版されていたんですよね。中国以外ではまず考えられないような企画だと思いますが、それだけ中国古典の素養がかつての日本人に影響していたということでしょう。

そんな中国古典の全集について、以前まとめてみたことがあります。このページの情報やリンクは、その後更新していないので、今となっては古かったり、リンクが切れているところもあるかと思いますが、ご寛恕ください。

で、そのページで取り上げている全集は以下の通りです。

国訳漢文大成
経史子部と文学部それぞれに正編と続編があり、主立った中国古典が収録されています。ただし訓読のみで現代語訳はありません。当時の人には読み下し文がすなわち現代語訳であったのでしょう。訓読の作法を知るには便利で、きれいな読み下し文です。語注もためになります。

漢文大系(冨山房)
諸子百家を中心に収録してあり、版本としての信頼性も高いシリーズです。近年、長澤規矩也先生の索引付が再版されましたが、原則として本文に送り仮名と返り点がついているだけで、別に訓読・現代語訳があるわけではありません。

新釈漢文大系(明治書院)
いつになったら完結するのかというくらい延々発行され続けているシリーズで、本文に読み下し文・現代語訳、および注釈が施されています。全100巻という大型のシリーズのため、多少マイナーなものも収録されていることがあります。

中国古典新書(明徳出版)
新釈漢文大系を上回る巻数を誇り、かなりマイナーな本も収録されていることがある。ただし廉価シリーズなので、ほとんどの書は抄訳であるので、むしろ巻頭の解説を参考に使うべきであろう。

全釈漢文大系(旺文社)
個人的には新釈漢文大系よりもこちらの方が好きである。訳文や注釈などもわかりやすい気がする。このシリーズの後半は『文選』が収められているので、経史子については種類は少なめである。

中国古典文学大系(平凡社)
全60巻で、小説や詩まで収録されている。文学関係では最も充実しているシリーズである。巻末に原文が載っているが、本文には現代語訳しか載っていないので、使う場合には自分でもう一度原典に当たってみる必要がある。

中国の古典(学習研究社)
原文は別冊で箱のすき間に挟み込んである。不確かな記憶では発行されたのが学部3年の頃だったので、ほとんど利用しなかった。収録している古典は上記の各大系と変わらない。

いま読み返すと、です・ます調とである調が混ざっていて整理されていない文章ですね。情けない……

この他に角川書店も「鑑賞中国の古典」という全集を、たぶん20巻前後くらい刊行していたような記憶があります。また徳間書店も「中国の思想」というシリーズを刊行していて、その後、徳間書店は「史記」「三国志」「十八史略」も同じようなスタイルで出していましたね。

で、上の紹介文を見てもおわかりのように、あたしは旺文社が好きでしたし、よく利用していました。明治書院は残念ながらその次でした。それに、旺文社よりも先に、「国訳漢文大成」や「冨山房漢文大系」に収録されている古典であれば、まずはそれで訓読をチェックするというのが最優先でした。

その他ですと、岩波文庫、中公文庫、講談社学術文庫、朝日文庫など、文庫に収録されている中国古典も適宜参照していました。たぶん『論語』なら10種類以上の翻訳を持っているのではないでしょうか? まあ、中国古典を学んでいる人は、みんなそんな感じでしょう。

さて、あたしは上記の全集の中では、「国訳漢文大成」の「経史子部」の正編、冨山房の「漢文大系」、平凡社の「中国古典文学大系」を全巻持っています。徳間書店の「中国の思想」以下の4シリーズもすべて持っています。

こういったシリーズ、全集にどんな古典が収録されているかは、こちらのページにまとめたことがあります、漏れがあると思いますし、最下欄の検索は使えませんが……(汗)

改めて見返して思いました。

これらの、昔作ったページ、もう一度整理して、きちんと再オープンしたいものですね。

2017年11月3日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー

大日本雄辯会と中国

あえて大日本雄辯会なんて書いてしまいましたが、大手出版社・講談社のことです。大手総合出版社ですから、講談社と聞いてイメージする出版物は人それぞれだと思います。

あたしにとっては、最近は学術文庫と現代新書のイメージが強いですが、かつては中国ものも精力的に出していました。あたしの書架からそれらをご紹介いたします。

まずは上の写真の「中国の歴史」(全10巻)です。これは中国の通史としてはよく出来ています。当時の一線級の方々が分担執筆されていて、最新の学術成果なども盛り込まれています。

上の「中国の歴史」が多少の図版はあるにせよ、ほぼ文字ばかりの草書だったのに対し、この「図説・中国の歴史」はそのビジュアル版といったものでした。判型も大きく、豊富な図版がたくさん載っています。考古発掘成果なども可能なかぎり載せてくれています。

これらは日中国交回復に伴う友好、蜜月時代の成果でしょうか?

上掲二つの「中国の歴史」が既に品切れになって久しい講談社でしたが、21世紀になって新しい「中国の歴史」を刊行し始めました。それが上の写真のシリーズです。時代を反映してなのか、もう函入りではありません。

そして、現在刊行中なのが上の写真の「東アジアの近現代史」のシリーズです。中国だけでなく東アジアに対象を広げています。最近は大陸横断、文明横断的な手法が花盛りで、アジアも日本史、中国史、朝鮮史などとバラバラに研究しているだけではダメな時代になったのですね。そんな成果を取り入れたのがこのシリーズになります。

ところで講談社の中国ものと言えば、最初にも書いたように講談社学術文庫や現代新書にあるものを思い浮かべる方がほとんどだと思いますが、講談社文庫にも中国ものはあります。

パッと思いつくのは陳舜臣「中国の歴史」だと思いますが、かつては上の写真のように講談社文庫に中国古典の翻訳が入っていました。この三つ、現在は在庫切れですよね?

2017年11月2日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー

最近の中国、なんかイヤな空気になっているのかな?

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2017年10月31日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー

不屈の人

台風が近づく中、会社まで出かけて行きました。

「わざわざ大雨の中、なんで?」と問われそうですが、それは陳光誠さんの講演会を聞きに行くためです。会場が駿河台の明治大学でしたから、いったん勤務先へ寄ったわけです。

陳光誠さんと聞いて、どれくらいの日本人がわかってくれるのでしょうか? 少し前から来日していて、各地で講演会を行なっています。その割に、朝日新聞など主要紙で記事になっているのを見ませんが、小さくても出ているのでしょうか。東京講演が今日までなかったからでしょうか?

で、その陳光誠さんですが、「盲目の人権活動家」として有名な方です。5年前、軟禁状態に置かれていた山東省の自宅から脱出し、支援者の助けを借りて北京のアメリカ大使館へ逃げ込み、悩んだ結果、アメリカへの亡命を決断した人、と言えば当時のニュースを思い出した方もいるのではないでしょうか?

いま「有名な方」と書きましたが、それは国際社会においての話であって、中国国内ではほとんど知られていないと思います。もちろん中国国内でも人権活動に従事している人や共産党に批判的な人なら当然知っている名前ですが、ノーベル平和賞を受賞した劉暁波の名前ですら、北京の街中で若者に聞いても知らない人がいると言われるくらいですから、陳光誠さんの中国国内における知名度も推して知るべきでしょう。

 

その陳光誠さんの脱出劇を中心に、中国政府の人権弾圧については、今日の講演会で陳光誠さんの対談相手を務めた城山英巳さんの『中国 消し去られた記録』に詳しいですし、今日、陳光誠さんが話されたご自身の半生については『不屈 盲目の人権活動家 陳光誠の闘い』により詳しく書かれています。

どちらも、あたしの勤務先の刊行物で、どちらも読んでいますが、あの脱出劇の主人公である陳光誠さんが目の前にいるというのが信じられません。その当時、北京にいて脱出劇を間近で取材していた城山さんも、ここ日本でこうして陳光誠さんの隣に座る日が来るなんて夢のようだと話されていました。『不屈』を読んだ人であれば、あの本の中の人がここにいるというだけで感動ものだと思います。

陳光誠さんのお話は、大まかな原稿は作ってあったようで、話しぶりは穏やかで非常にハキハキとしたものでしたが、共産党批判のくだりになると俄然声量が大きくなり、早口でまくし立てるようになるのが印象的でした。あたしなど、若干は共産党自身が自己改革、自浄作用を見せるのではないかという期待を抱いているところがあるのですが、その点、陳光誠さんの立場ははっきりしていて、共産党がなくならない限り中国に未来はない、というものでした。

多くの人が指摘するように、5年前アメリカへ亡命したのは正しかったのか、中国に残って影響力を保つべきだったのではないか、という意見もありましたが、陳光誠さんは、あの判断は正しかったと述べていました。確かにアメリカにいても監視の目、中国共産党の魔の手は近くに見え隠れしているようですが、それでも家族揃って平和に暮らしていられるのは、『不屈』を読めばどれだけかけがえのないことか理解できます。

また陳光誠さんは、当時よりもインターネットが発達しているので、国外にいても中国国内に影響を与えることはできると自信を持っているようでした。ただ、城山さんなどは習近平政権以降、つまり陳光誠さんが中国を離れて以降、ますます弾圧や圧迫が強まっている中国政府に対して、非常に悲観的な意見を持っているようです。

とにかく、いろいろ考えることはありますし、まだちょっと自分自身が興奮冷めやらぬところがあるので、このあたりで留めておきますが、今日のは講演会、恐らく200名以上集まっていたのではないでしょうか。日本人以外の方もいたようですし、陳光誠さんが盲目ということもあって、視覚障害をお持ちの方も数名会場にいたようでした。メディア席は20席くらいありましたが、ほぼ埋まっていましたので、明日以降、新聞などにも記事が載るのではないでしょうか?

講演会後、あたしの勤務先のスタッフが会場販売をしていたのですが、本は飛ぶように売れていました。そして陳光誠さんはご自身の著書に快くサインをしてくださいました。上の写真は、あたしがしていただいたサインです。目が不自由ですから片手を添えて、一画一画丁寧にペンを運んでいました。非常に朗らかに「謝謝」と声をかけてくれました。

2017年10月29日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー

もう少し専門分野の話が聞きたかった

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2017年10月29日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー

簡体字と繁体字を入れ替えただけではダメなのです

下の写真は、研修旅行の帰路、新幹線の車内で撮ったものです。車内誌『トランヴェール』の表紙です。

母の故郷が新潟で、新潟特集の号だから撮ってみた、というのではありません(笑)。

あたしが気になったのは、一番下のところです。英語版簡体中国語版繁体中国語版、そして韓国語版のサイトがあるということが書かれています。このお知らせの文面が非常に気になりました。

英語併記の看板は以前から多かったですが、このところは中国語や韓国語も併記している看板があちこちで目にするようになりました。もちろんウェブサイトなども日英中韓各国語のページを用意しているところが増えました。

そんな多国語の案内ですが、中国語はご存じのように大陸で使っている簡略化した漢字の簡体字と、台湾や香港で使われている昔ながらの漢字・繁体字があり、その両方で表記している案内看板も多いです。しかし、そのほとんどは同じ文面を簡単字と繁体字とで表記しているものです。

たいていのものはそれで通じますから間違いではありませんが、すべてがそれで済むわけではありません。通じるけど、ネイティブから見たらなんかヘン、という表記が日本国内には溢れているのではないかと思われます。そんな中、この『トランヴェール』です。

簡体字版の案内としては

提供《Train Vert》中文(简体)的简易版

とあります。それに対して、繁体字版の案内は

《Train Vert》的簡易版可以中文(繁體)瀏覽

です。これは『トランヴェール』の編集部がそれなりに気を遣っている、各国版に真摯に向き合っている証拠なのだと思います。あたしの中国語力では、それぞれの表記の妥当性までは判断できませんが(汗)。

2017年10月21日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー

「まお」と言ったら、井上真央でも浅田真央でも小林麻央でもなく、毛沢東のことです

今日は毛沢東の命日だと書いたので、自宅にある関連グッズを探してみました。

まずは壮年のころの毛沢東の写真を使ったマグネットです。だいたい名刺とかクレジットカードくらいの大きさです。記憶が正しければ香港へ行ったときに買ったはずです。帰国前に両替するのも面倒な小銭を処分するのにちょうどよかったので、香港の夜景のマグネットと一緒に買ったものです。

 

続きましては、古本屋で買った角川文庫版の『毛沢東語録』です。あいにくと本家本元の毛沢東語録は持っていませんが(涙)、本書はなぜか二冊持っています。一時期、大陸では毛沢東グッズが大流行したそうですね。毛語録も売られていたという噂も聞きましたが、本当だったのでしょうか? あるいは今も北京の書店へ行けば普通に買えるものなのでしょうか?

この角川文庫版も今は絶版ですよね? 平凡社ライブラリーに移っているようです。

三つ目は懐中時計です。恩師・伊地智善継先生の中国土産です。あたしがふだんから懐中時計をしていたのをご存じだったからのチョイスだと思います。今は使っていませんので、電池も切れて針は止まったままです。

最後は北京の友人にもらったものです。友人宅へ遊びに行ったときに、少し前に旅行で行って来たおみやげだと言ってくれました。別にあたしのためにわざわざ買ってきたものだとは思えません。たぶん、韶山の毛沢東故居を参観したとき、参観者全員に配られた記念品でしょう。

ガラス製です。ただの置物なのかとも思えますが、形状などからして、ペーパーウェイトなんだろうと思います。

あと。毛沢東バッヂも持っていたような気がしますが、それがちょっとどこへ仕舞ったのか見つかりません(汗)。

2017年9月9日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー

上海、行きたいなあ~

温又柔『真ん中の子どもたち』読了。

ストーリーは日本人の父(台湾研究者)と台湾人の母を持つ主人公が日本で中国語学校に入り、その勉強の一環として一か月の語学留学で上海を訪れさまざまな経験をするというもの。本書の感想やストーリー紹介は省きまして、あたしが読んでいて一番楽しかったのは、その上海を主人公と級友が散策するシーンです。

あたしも中国は何度か訪れていますが、最後に訪中してからかれこれ10年になろうとしています。これまでの訪中は「中国旅行記&写真帳」にまとめてあります。それによると、上海には5回行ってることがわかります。同書の主人公が上海を訪れたのは、あたしの5回の上海訪問よりは少し後になると思われますが、現在の上海ではないのでやや懐かしさを覚える描写も随所に見られました。

特に印象に残っているのは海関の時計ですね。やはり上海と言えば外灘(バンド)、外灘と言えば、和平飯店と共にあの時計が印象的です。あの時計の鐘の音を聴きながら和平飯店で食事をしたことが二回あります。一回目ははじめのの訪中の時で、それは主人公と同じ一か月の短期語学研修で、あたしは北京で四週間学んでいました。その後、卒業旅行として洛陽、西安、上海と一週間かけて旅したのですが、その時です。もう一度は母と妹と三人で訪中したときです。

初めて和平飯店で食事をしたときのことは、自分の旅行記にこんな風に書いています。

 締めくくりに、和平飯店(中国では、飯店、賓館と言ったらホテルのこと。このホテルは、上海でもベストスリーにランクされる程の高級ホテルです)の北楼七階だったか八階だったかのレストラン(中華は飽きたので洋食の)で、上海の黄浦江を行き交う船と、黄昏から夜の帳が降りる街を見下ろしながらワインで乾杯して、食事をして……。バックには、ピアノが生演奏でショパンを奏でていた、と言うより叩いていたと言う方が正しいかな。窓からは大時計が見えていて、これがライトで輝いていた。
この時計が三度目の時を告げ、そろそろ戻ろうということになり、タクシーを頼んで宿舎へ帰った。

なんか、今とはずいぶんと文体が異なっていて、自分で書いたとは思えませんが……(汗)。とはいえ、とてもロマンチック、雰囲気がよかったのは事実です。

また主人公が男友達と魯迅公園を歩くシーンがありましたが、あたしももちろん行っています。大世界(ダスカ)は前を通っただけで中には入りませんでした。昔の華やかなりし話は読んだり聞いたりしていますので、今、中を覗いてもどうなんだろうと思ったからですが、同書を読んだ後では、やはり入ってみればよかったかなと、ちょっと後悔してます。

 

とにかく、主人公の見聞きする上海が、今ほど発展するちょっと前で、あたしが最後に目にしたころの上海と非常に近しいのではないかという気がして、懐かしく読みました。ああ、また中国、行きたいなあ~

2017年9月3日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー

本、書店、そして中国

昨夕は、ジュンク堂書店池袋本店にてのイベント「本、書店、そして中国」へ行って来ました。講師は、東方書店の元店長の田村さん。あたしが学生時代に東方書店でアルバイトをしていたころ、神保町すずらん通りのお店の店長でした。いや、あの頃は神崎さんが店長だったかしら? とにかく、昔から縁のある方です。

話は東方書店の沿革と田村さんが従事されていた仕事内容についてが主でした。あたしも東方書店でアルバイトをしていたので多少は知っている話もありましたが、知らないことも多く、楽しいひとときでした。

で、このダイアリーを読んでくださっている方の中には「東方書店って何?」という方もいらっしゃるかと思いますので、昨夕のイベントのメモに基づきながら、軽くご紹介します。

もともとは極東書店という、言ってみれば左寄りの書店があったわけです。それが1966年に中国で文革(プロレタリア文化大革命)が始まるに及んで、ソ連寄りと中国寄りとで分裂し、中国派が分かれて立ち上げたのが東方書店です。ですから、東方書店はその設立当初から日中友好というのがDNAとして埋め込まれている書店なのです。

ただし、できた当初は文革真っ只中。はじめはプロパガンダ商品を主に扱っていたようです。毛沢東語録とか文革礼讃ポスターなどを輸入販売していたのでしょうか? あたしも知りませんが、あのころは文革を指示する日本の知識人もそれなりにいたので、ある程度の需要はあったのでしょうね。

あとは、中国から輸入した物産を扱っていて、デパートなどで行なわれる物産展に出展することもあったそうです。今からはとても考えられない総合商社ぶりです(笑)。まあ、食材や文房四宝などは当時でも売れたのではないでしょうか?

その後、文革も終わると徐々に書籍も入ってきたようですが、売り上げの柱になっていたのは書道用品だったそうです。当時はお店の一角で書道用品を扱っていて、固定客も着いていたそうです。そして墨や硯などの骨董的な高級品も飛ぶように売れていたのだとか。確か、あたしが学生のころは、お店で書道用品を扱っていたのをうっすらと覚えています。

中国ブームが到来しつつあるものの、肝心な語学書は光生館や東方書店が、中国で作られた外国人向けの中国語学習書を翻訳して発行している程度で、現在とは比較にならないほどアイテムが乏しかったようです。その後は、企業の中国進出向けの本、中国人とのトラブル解決法や付き合い方の本などが売れるように推移してきたそうです。

現在の東方書店は、中国で作られた学術雑誌のデータベースなどの販売にも乗りだしつつも、店舗での中国関連書籍の販売を続けています。あたしが学生のころ、神保町周辺には中国からの輸入書籍が扱う書店が東方書店の他にもいくつかあり、授業の後や土曜日にそういった書店巡りをするのが楽しみでもありました。現在ではすずらん通りで斜めに向かい合う東方書店と内山書店くらいしか残っていないのが残念です。

中国からの輸入書籍を扱うお店がそんなに揃っていて共倒れにならないの、という疑問もあるかと思います。もちろん現在はなくなっているお店があるわけですから共倒れしたと言えなくもないですし、そもそも中国関係に限らず書店全般、出版界全般が右肩下がりですから致し方ないです。ただ、それでも内山と東方があると言うことは、中国好きにとっては「神保町まで行ってみるか」というきっかけを与えてくれることになると思います。これがどちらか一店舗だけしかなかったら、わざわざ出向くのも面倒と思ってしまうでしょうけど、二つあれば行こうという気持ちも起こるのではないでしょうか? それに中国からの輸入書ではありませんが、漢籍などの古書を扱うお店も神保町には何店舗かあります。周恩来ゆかりの中国料理屋もありますし、冷し中華発祥のお店も神保町にあります。あとは中華街にあるような気の利いた中国雑貨屋が二つ三つあればよいのに、と個人的には思います。

閑話休題。

来客からの質問にもありましたが、内山書店と東方書店。すぐ近くに向かい合って存在する似たような書店ではあり、お互いどうなのかという点ですが、使う側からすると、思想、歴史に強いのが東方書店、文学、特に現代文学に強いのが内山書店、という色があります。あたしが学生のころには芸術系が充実していた中華書店、思わぬ掘り出し物が時に見つかる亜当書店、医学系が強かった燎原書店という棲み分けというか、特色が各店にあったものです。

さて、今回のイベント。ジュンク堂書店の担当の方の弁では、ジュンクのような大型店に対して、街の書店、セレクト型書店などが書店の形態として生まれてきているけれど、あるジャンルに特化した東方書店のような書店はとはどんなものなのかに興味を持たれたからやることになったそうです。

考えてみますと、中国に特化した東方書店(や内山書店)というのは、ずいぶん前からやっているセレクト型書店と言えなくもありません。田村さんも述べていましたが、中国語の学習書にしろ、中国史関係の書籍にしろ、恐らく東方書店の店頭よりジュンク堂の店頭の方が品揃えは勝っているでしょう。それでも東方書店が便利であり優れているのは、広くないからこそ中国関係のものはそこへ行けばほぼほぼ揃ってしまう簡便さです。

中国関係の書籍といえば、あたしなどは雑食なので中国の小説も読みますし、歴史関係の研究書とまではないかなくても、やや堅めの本も読みます。中国旅行記のようなエッセイも読めば中国語の語学書にも食指は動きます。中国ビジネスこそあまり読んだり買ったりはしませんが、ジュンク堂書店ですと、これらの書籍は広い店内に散在しています。しかし東方書店や内山書店ですと、数十歩も歩けば見て回れる範囲に揃っています。なおかつ、ジュンク堂や紀伊国屋ではほぼ扱っていない、中国や台湾、香港からの輸入書も一緒に置いてあるわけですから、中国好きにとっても面白くないわけがありません。

一番顕著なのは、中国関係の書籍がよく刊行される文庫・新書ではないでしょうか? いまや数え切れないほどのレーベルがあり、そこから毎月何かしら中国関係の新刊が出ています。ジュンク堂だと各文庫・新書の棚を巡ってその中から中国関係の本を捜していかなければなりませんが、東方書店ならそれらだけをまとめて置いてくれていますので、文庫や新書のレーベルを回遊する手間が省けます。

こればかりはネット書店の検索機能でもうまいことできませんね。そもそも「中国」と入れると「岡山・広島」といった「中国地方」の書籍もヒットしてしまいますので(汗)。そんなところが、リアル書店のよさであり、東方書店の存在意義なんだと思います。

2017年8月30日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー

呪縛は解けていない?

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2017年8月28日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー