「世界を変えた」人は確かに立派なのでしょうけど……

書店店頭でこんな本が並んでいるのを見かけました。

 

世界を変えた100人の女の子の物語』と『世界を変えた50人の女性科学者たち』です。タイトルもよく似ていて装丁まで似た感じ、同じ出版社から出たシリーズもののようにも見えますが、微妙に判型が異なりますし、そもそも出版社が異なります。

このような「世界を変えた」と名が付く書籍は偉人に注目したものが多いですが、本や建物、発明などモノにスポットをあてたものも数多く出版されていて、このジャンルの人気があることがうかがわれます。つまりは「失敗の本質」の逆で、成功した人の体験に学びたいということなのだと思います。

一般的なものは既に出尽くしたので「女性」にスポット当ててみたのがこの両書ということなのでしょうか。いみじくもそんな両書がほぼ同時刊行されているのは偶然なのか、必然なのか、そのあたりの事情はわかりません。前者は224ページで税込み2592円、後者は128ページで同じく1944円。前者はタイトルが「女の子」となっているように、大人だけでなく、多分に児童にも目を向けた本のようですね。

ところで、こういう「世界を変えた」人の話って、確かにためになるし、勉強になるし、自分も頑張ろうという気持ちにさせてくれる面はあると思うのですが、あたしのような天の邪鬼はどうしても説教臭さが気になって素直に受け取れないところがあります。たぶん、そういう人って多いのではないでしょうか?

そんな人たちに是非読んでもらいたいのが『バンヴァードの阿房宮 世界を変えなかった十三人』です。これも先の二書と同じように翻訳物ですが、たったの13人で446ページ、税込み価格はなんと3888円もします。こちらは、一人一人に紙幅をきちんと割いた読み物です。

この手の本は、翻訳にしろ、日本人の著作にしろ、一人数ページで簡単にその偉人が成し遂げたことが理解できるように作るのが王道だと思います。しかし本書はそうではなく、とにかく自分の信念だけを信じ、ただそれにひたすら忠実に、真面目に生きた13人の物語です。

本書が出た当時、朝日新聞の読書欄で三浦しをんさんが紹介してくださいました。

私が特に好きだったのは、前述した十九世紀のロミオ役者、ロバート・コーツと、台湾人だと自称して十八世紀のロンドンを騒がせたジョージ・サルマナザールだ。コーツ氏の珍妙な舞台衣装と熱演ぶり(および観客の戸惑いと怒号)の描写は、腹の皮をよじれさせずに読むのが困難だ。見たかったよ、こんなすごすぎる『ロミオとジュリエット』! サルマナザール氏に至っては、数奇な人生すぎてここでは説明しきれない。彼は日本人を自称したこともあるのだが、実際はアジア人では全然なかった。(2014年9月28日付朝日新聞)

この文章だけでも、本書を読んでみたくなったりしませんか? ちょっと高いしボリュームもあるので気軽に手が伸びる本ではないかも知れません。しかし、読み始めたら止まらない、とにかく面白い一冊です。そして三浦しをんさんは

本書に登場する人々は、ほとんどが失意と悲しみのうちに世を去り、死後の栄誉や称賛とも無縁だ。だが、著者の丹念な筆致は、大切な事実を浮き彫りにする。情熱を持って精一杯生きたひとのなかに、「敗れ去ったひと」など本当は一人もいないのだ、ということを。

と紹介文を結んでいます。あたしも読みましたが、読後に一抹の寂しさと共に何とも言えない爽快感、満足感も感じられるのが本書でした。