英雄か梟雄か凡将か

張作霖』が面白いです。タイトルどおり、奉天郊外で日本軍によって爆殺された中国の軍閥・張作霖の評伝です。

 

張作霖、恐らく日本ではいま述べたように「日本軍に殺された」という印象しかない人がほとんどでしょう。そして張作霖爆殺を意味する「満州某重大事件」という歴史ワードも「知らない」「聞いたことない」という人が増えているのではないかと思います。そんな張作霖、あたしも中国史を専攻していたとはいえ、それほど詳しく知っていたわけではありません。が、本書を読んで目から鱗でした。

日本軍の満洲侵略、共産化したソ連の南下という外患、国内に目を転じれば軍閥間の飽くことなき権力争い、そして南からは蒋介石率いる北伐軍が迫り、そんな情勢下、東北三省をまとめ上げ、勢力を維持していくのは至難の業だったはず。それを見事にやってのけた張作霖はやはり稀代の英雄だったのでしょうか? あるいは梟雄と読んだ方がふさわしいのでしょうか?

本書ではそんな張作霖と家族たち(ファミリー)について、冒険活劇のように描き出しています。まるで『三国志』や『史記』『水滸伝』を読んでいるかのような錯覚に捕らわれますし、あたしは読んだことありませんが北方謙三の中国ものに通じる痛快さがあるのではないでしょうか?

それにしても、張作霖も含め、時代の流れ、外敵の侵略という時勢を考えれば、お互いに争っているのではなく一致協力して日本に立ち向かうべきだったのではないでしょうか? どうしてそれが出来なかったのか。そのあたりの軍閥群像劇は同著者による『覇王と革命』に譲るとして、これだけの統率力を持ちながらも、結局は並居る軍閥とさほど変わらない行動しか取れなかった張作霖が残念でありません。

2017年3月12日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー