昼の話は鳥が聞き、夜の話はネズミが聞く

昨晩の、八重洲ブックセンターでの齋藤真理子さん、岸本佐知子さんのトークイベント。手元のメモを元に少々ご紹介。念のため断わっておきますと、新刊『ピンポン』の刊行記念トークイベントでした。

同じ翻訳家として、今回は岸本さんが聞き役、齋藤さんがそれに答えつつ話が膨らんで脱線し……という感じでした。

まず齋藤さんとパク・ミンギュ作品との出会いについてですが、『カステラ』はクレインの社長が齋藤さんに持ちかけたもので、齋藤さんはそれまでパク・ミンギュについてはほとんど知らなかったそうです。

岸本さんは、『ピンポン』の中の作中小説であるジョン・メイスンの作品について、自分が訳したニコルソン・ベイカーに通じるものがあるので大好きだとのこと。また齋藤さんからは、後にパク・ミンギュ自身から「自分が好きな日本の作品は宮澤賢治の銀河鉄道の夜だ」と聞いて、『ピンポン』の主人公釘とモアイはジョバンニとカムパネルラに相当するのではないか、街と学校と原っぱを巡っている二人の世界、そこをグルグル回った遠心力で卓球界に飛ぶストーリーなど、銀河鉄道の夜をモチーフにしているのところがあるのではないかと思うようになったという非常に興味深い意見が出て来ました。

話は中二病に及び、日本の中二病と韓国の中二病との違いについて。そもそも中二病という言葉自体も日本から入ってきた言葉であり、概念ですが、日本ではやや自嘲気味に使われる言葉だと思われるのに対し、韓国ではもっとシビアな、罵倒語として使われているそうです。それは日本よりも更に受験戦争が厳しい韓国社会を反映しているのではないかとのことです。

また韓国文学については、純文学の比率が高く、ミステリーやSFなどは一段低く見られていて、だから日本の作家、作品が若い人を中心によく読まれているそうです。しかし社会がどんどん変わっていっているのに文学が(純文学偏重のまま)変わらないのはおかしいという声も上がっており、パク・ミンギュ氏などは「純文学という監獄から出るべきだ」と発言されているそうです。

中二病に限らず、近代以降の歴史において日本に支配されていたこともあり、近代的な語彙や概念は日本語から入ったものが多く、日本語を通じて近代化したのが韓国の近代史であり、翻訳に当たってはそういったものを完全に払拭してツルツルの文体にしてしまってはよくないのではないか、もっとゴツゴツしたものを残すようにしている、という齋藤さんの発言もありました。このあたり、翻訳の文体はどうあるべきか、岸本さんとの話もかなり盛り上がっていました。

ところで、あたしは『銀河鉄道の夜』は読んだことがありません(汗)。打ち上げでそんな話をしたら、齋藤さん、岸本さんから、「それは貴重だから、この先も一生読まないままでいるように」と釘を刺されてしまいました(笑)。

最後に、下の写真は昨日のいでたち。どうしてこういうブラウスとネクタイなのか、わかりますか?

『ピンポン』の章名にもなっている韓国のことわざ「昼の話は鳥が聞き、夜の話はネズミが聞く」を意識しています、と言えばわかっていただけるでしょうか?