得も言われぬ読後感?

《エクス・リブリス》の新刊『もう死んでいる十二人の女たちと』を読了しました。

この数年ブームの韓国文学? 確かにその通りです。ただ、この数年の日本における韓国文学ブームは「=フェミニズム」といった作品が多かったと思いますし、話題になるのもそういった作品ばかりだと思いますが、本作はそれとは一線を画しています。

あたしの少ない読書経験からしますと、韓国文学と言えば『こびとが打ち上げた小さなボール』に代表されるような辛くて重い歴史を踏まえたもの、『三美スーパースターズ 最後のファンクラブ』のような経済危機に打ちのめされたサラリーマンの悲哀を描いたもの、そして『82年生まれ、キム・ジヨン』に代表されるフェミニズムだと思ってきました。ところが、本作はそのどれにも当てはまりません。

それぞれの要素を少しずつ取り込んではいるものの、それらのどれとも異なり、幻想的なようでもあり、SF的な感じもしていて、得も言われぬ読後感、否、読中感を感じながら読んでいました。作品の世界にうまく入り込めないと「いったい何を描いているんだろう?」と感じてしまう作品もありますし、「いったい何にこだわっているのだろう」と感じられるものもあります。

たぶん光州事件とか、セウォル号沈没事故といった韓国国内の事件、事故をあたしも身近に感じられればより作者の気持ち、言わんとしていることが迫ってくるのでしょう。そのような意味では古里原発事故を踏まえた作品は福島の原発事故を体験している日本人には理解しやすい、感情移入しやすい作品ではないかと思います。

とはいえ、このような社会問題を踏まえて、それらを声高に非難したり告発したりする作品ではありません。どの作品にも共通して感じるのは、主人公や登場人物の中から何かがすっぽりと抜け落ちてしまっているような感覚です。これをどう表現したらよいのか難しいですが、最近のフェミニズム寄りの韓国文学に飽きてしまった方には是非一読をお薦めします。