何が欲しい?

私の欲しいものリスト』読了。本国では映画も公開されているとか。大人の苦い味わいの作品になっているのではないでしょうか?

ネタバレ的に書いてしまいますと、主人公は40代後半のごくごく平凡な主婦です。若い頃から手伝っていた手芸店をそのまま引き継ぎ、その傍ら、自分の手芸作品などをブログに書いていたら、それが多くの女性の支持を集める人気サイトになっていて、雑誌の取材を受けるようになります。そんな彼女が近所の友達に勧められるまま宝くじを買ったところ、それが高額賞金を当ててしまいます。

さて、このお金をどうするか。夫にも打ち明けず、一人悶々と悩む主人公。ノートに自分の欲しいものややりたいことを書き出します。それらすべて、このお金があればかなうわけですが、主人公は逡巡します。当選金額が描かれた小切手をクローゼットの中に隠し、何事もなかったように日々を過ごし、時々小切手を取り出してはため息をつく。そんなある日、夫が仕事の研修と称して出張に出かけますが、その留守中、小切手がなくなっていることに気づきます。夫が持ち出したことは明らか。出張先に連絡を入れるも、そのような人は来ていない、そもそも研修などやっていないと言われてしまいます。

で、ここまではフランスだろうと日本だろうとありがちなストーリーです。夫は小切手を持ち出したはよいが、贅沢なことをしてみても心の空虚がますます広がるばかり。そして妻に対する裏切り行為の代償が重くのしかかってきます。妻も平凡で幸せだった生活が崩壊し、手芸店を譲渡し旅に出ます。たぶん、日本の小説であれば、子供を鎹に夫婦をもう一度お互いを認め許し合い、温かな家庭を取り戻すという結末が予想されますが、そこはフランス小説です。そうはなりません。

夫は酒浸りとなり、妻への罪の意識にさいなまれつつ、ぼろ雑巾のようになって寂しい最期を迎えます。妻は旅先で知り合った男性と新しい恋を始め、これからの生活を考えます。なんとたくましい女性でしょう、と思わされます。日本だったらこうはならないな、と思います。それにこの夫婦の危機に二人の子供はまるっきり役割を演じることなく終わります。「子は鎹」というのは日本だけのものなのでしょうか?

こういう終わり方が幸せなのかどうか、日本人であるあたしには断言できません。あたしのように感じる日本人は多いのではないかと思います。ただ、こういう生き方もあるのか、というふうに納得できるところも多々ありますし、お金で幸せは買えるのか、手に入れられるのかという命題は日本もフランスも変わらない気がします。

そして、そういうことよりも、こういう結末に行き着くというのがフランス小説としては普通なのだとしたら、このようなフランス人的人生を知ることができるという意味で、この小説を読む愉しみ、異文化を知るという意味での海外小説の味わい方が堪能できる作品ではないでしょうか?