2015年のアーカイブ
ビスマルク
息子は別人?
『民のいない神』読了。帯にはピンチョンやデリーロの名前が載っていますが、あたしはどちらも読んだことがありませんので、比較はできません。
で、本書です。いくつかの時代を行ったり来たりしますが、基本となるのは現代の話で、アメリカで暮らすシク教徒のジャズとユダヤ人のリサ夫婦、それに二人の自閉症の子供ラージ。ラージの症状に苦しみながら、そしてお互いの文化的背景に苦労しながらも二人は比較的うまくやっていました。むしろ彼らの家族、親戚が問題の原因と言えます。そんな三人家族がアメリカ西部の砂漠に旅行にやってきます。そこにあるのがピナクル・ロックという、三つの岩が山のように天に突き出している場所。ここで二人がラージから目を離したすきにラージは行方不明となってしまいます。自閉症の子供の神隠し、行方は杳として知れず、夫婦は悲劇の主人公としてマスコミに取り上げられます。
が、じきに状況は一変。二人が息子を殺したのだという疑惑がマスコミによって広められ、精神的に追い詰められていきます。そんなボロボロの生活が数ヶ月続いたころ、突然ラージが見つかったという警察からの連絡が入ります。安堵する二人ですが、戻ってきた息子はかつての自閉症がすっかり治っているかのような雰囲気です。どうして失踪したのか、失踪中はどこにいたのか、どのように暮らしていたのか、そして自閉症が治ったかのように見えるのはなぜなのか?
こういった疑問が残されたまま夫婦はラージを伴って、再びピナクル・ロックへと向かいます。このピナクル・ロックにまつわるサイドストーリーが、ジャズとリサ夫婦のストーリーの間に挟み込まれます。そこはかつてカルト的な集団の聖地としてヒッピーのような連中が居着いていたりした場所でもあったのです。そんな連中の残党がジャズたちと少しずつ関わりを持ち、ラージの失踪にも関わっているようで……
さて、結局、結末はどうなっているのでしょう? ピナクル・ロックはやはり何か特殊な力を持った場所、磁場か何かなのでしょうか? そうでないと、これだけの人の人生を振り回した理由が説明できません。そして、そうであれば、ラージの失踪などもなんとなく納得できますから。
ところで、作者はなんでこんな時代を行ったり来たりの作品を書いたのでしょう? いや、こういう構成を取る作品がまるでないわけではないですから、作者のオリジナルだというわけではありませんが、なんでこういう構成なのか? あたしなりに考えますに、このジャズ一家のストーリーが非常に現代的です。いかにも現代にありそうな、いや実際にこういった事件、事故は枚挙に暇がないほどあったでしょうし、こういうカルチャーギャップに苦しむ家族や夫婦、恋人の話もたくさんあります。なので、いかにも現代的であるのに実はとても陳腐でありきたりなんです。
しかし、この家族の事件の合間に挟み込まれるピナクル・ロックにまつわるストーリー。完全にシンクロはしないのですが、ジャズ一家に起きていることの伏線になっているかのようなストーリーだなと感じます。だとすると、そんな昔に、既に現代的な出来事が起きていたということになるのでしょうか? たぶん、そうではなく、昔も今も人間の営みってそんなに変わるものではない、そんなことを作者は描きたかったのか、そう思えてきました。そして、張り巡らしたように思われる伏線のほとんどが回収されない終わり方、昔も今も変わらないということは未來も変わらない、だからこれからもまだ同じようなことが続きますよ、という意味なのかな、と思いました。
夢の持てる業界に?
Facebookにも書いたのでちょっとくどくなりますが、改めて……(汗)
AKB48の人気ナンバーワン、渡辺麻友が、4月から始まるフジテレビ系のドラマに主演するそうです。彼女にとっては初のゴールデンタイムのドラマに主演するということで、たぶんAKBのヲタたちは狂喜乱舞していることでしょう。あたしとしては、そういうことよりもドラマのテーマの方が気になります。
とりあえず、ドラマのタイトルは「戦う!書店ガール」だそうです。はい、主演がまゆゆであろうとなかろうと気になってしまうタイトルです。原作は碧野圭さんのベストセラー『書店ガール』だそうです。
人気シリーズで、文庫本が3冊刊行されています。ただし、最初は単行本で出ていて、その時のタイトルは『ブックストア・ウォーズ』と言いました。
タイトルからもわかるとおり、書店を取り巻く厳しい現状を描いた、まさしく修羅場を描いた作品でした。文庫化され2巻目、3巻目が出るようになると、もう少し人間模様というか、若干恋愛的要素も入ってきたかな、という感じがしましたが、相変わらずこの業界の厳しさは変わっていないようです。
ドラマがどこまでこの業界の苦しさ、現状を描くことになるのかわかりません。中途半端に恋愛要素を絡めず、社会派ドラマと呼ばれるようなものを目指してもらいたいと思います。とはいえ、それによって「ああ、出版業界、書店業界は将来性のない分野だ」と思われてしまうのも癪です。確かに長引く不景気は業界に暗い影を落としていますが、この作品で描かれているように日々奮闘している書店員さんもたくさんいるわけで、ドラマではあまり綺麗事になりすぎず、かといってくらい印象だけを植えつけることのないように作ってもらえたら、と思っています。
実際問題、この数年、大きな商業施設ができても、そこに書店が無いということが多くなりました。たとえば表参道ヒルズに書店はあるでしょうか? 虎ノ門ヒルズはどうでしょう? どちらも書店が入っているという印象派ありませんよね。実際にも入っていません。かつては、こういう商業施設ができると聞くと、出版社の人間は「こんどはどこの書店が入るのだろう?」という話題が出たものです。「イトーヨーカ堂ならくまざわ書店かな?」「イオンモールなら未来屋書店かな?」「ゆめタウンだと紀伊國屋書店か?」といった会話が交わされたものです。それがこの数年は「どこの書店が?」ではなく、「書店は入るのか、入らないのか?」という会話になってしまっています。渋谷のヒカリエが象徴的だったと記憶しています。東京の主要ターミナルの駅前の商業施設なのに書店がないなんて……
もう一つ感じるのは、時々新聞やテレビで発表される「招来なりたい職業」にテレビの「アナウンサー」はランクインしたとしても「編集者」はない、「花屋さん」「ケーキ屋さん」はあっとしても「本屋さん」は見たことがありません。キッザニアでも本屋さんとか、出版といった職業体験はありませんよね。こういったところにこの業界の現状が表われているような気がします。
なので、今回のドラマで少しでもこの業界に将来性を抱いてくれる人が現われると嬉しいと思いますし、本屋さんに来る人、本屋さんで本を買う人が増えてくれると更に嬉しく思います。そのためにも、渡辺麻友が主演ということだけがフィーチャーされるのではなく、硬派なドラマとして内容で勝負してもらいたいところです。
ところで、「渡辺麻友のようなカワイイ女の子なんているの?」と思う人も多いのではないかと思います。書店員さんには社員とパート・アルバイトがありますし、社員といっても正社員と契約社員・時間社員といった違いもありますが、そんな区別は抜きに、とにかく書店で働いている人ということで言えば、渡辺麻友のようにかわいい人はいます。いや、カワイイとかそうでないというのは個人の好みが大きいですから、まゆゆを規準にして話をしても意味がないかも知れませんが、客観的に言ってカワイイ、きれいと呼べる人はたくさんいます。ケーキ屋さんとかファッション、アパレル系ほどではありませんが、書店というのは女性の多い職場だと思います。だから、「あんなカワイイ子が働いているわけないだろう」という意見があったとすれば、あたしはそれに自信を持って否と答えることができます。いや、個人の好みで言わせてもらえれば、まゆゆよりもカワイイ子がいると断言できます。(『書店不屈宣言』にもきれいな書店員さんが紹介されています!)
閑話休題。
書店業界、出版業界を扱った本は何冊も出ています。雑誌でも本屋さん特集はしばしば見かけます。でも、あたしの漠たる印象ですと、結局そういう本って業界の人の間だけでしか話題になっていない気がします。業界にいる人間にとってはそのうちの何冊かは目を通している人も多いでしょうが、業界外にまで波及しているのかというと微妙だと感じます。せっかくこういうドラマが放映されるわけですから、業界外の人にも関心や興味を持ってもらえると嬉しいと思いますし、それを願っています。
でも、ドラマの影響で出版・書店業界に関心を持ってくれる人が増えるよりも、本屋で本を買ってくれる人が増えることの方が嬉しいです。本を好きになってくれる人が今以上に増えてくれると嬉しいです。だから主演の二人には、本を読んでいたり、本を持っているようなシーンが多いことを願っています。まゆゆが仕事終えて家に帰り、寝るまえに部屋で、あるいはベッドの中で『2666』なんて読んでいたらちょっと格好よくないですか?
ところで原作を読んでいる方はご存じだと思いますが、この作品の舞台は第一巻が東京の立川にあるオリオン書房、それもたぶんノルテ店です。第二巻・第三巻になると(第一巻の書店が閉店になったため)吉祥寺のジュンク堂書店に移ります。どちらかでロケとかあるのでしょうか? 書店はともかく立川か吉祥寺でロケとかないのでしょうかね?
ただフジテレビのサイトにある写真を見ると、まゆゆがつけているエプロン、オリオン書房(紺)でもジュンク堂(緑)でもないんですよね。舞台はどこになるのでしょう? ペガサス書房のままのようですから、やはりオリオン書房でロケでしょうか?
本当の友好に産みの苦しみ?
中国の旧正月、春節の大型連休で日本にもたくさんの中国人が来ているようです。来ていると言うだけでなく、中国人が来ることを当て込んで、なんとか地元や商品を売り込もうと必死の日本、という構図も報道などからはうかがえます。政治の世界がこれだけ冷え込んでいるというのに、民間レベルでは全く関係なく動いているところがおもしろいものです。
さて、このところ中国人の所得増加、それに伴う海外旅行ブームによって世界各地で中国人と地元の人との軋轢が生じているようで、時々ニュースでも報じられます。多いのはマナーの悪さ。ほぼそれに尽きるという感じです。ただこれは、まるっきり習慣も文化も異なる海外に来たら、誰だって多かれ少なかれあることで、ネットなどではそれをかなり極端に誇張して報じているようですが、多くの中国人が海外旅行を経験するようになれば、おのずと国内でもそういう知識や経験が伝わり徐々に国際ルールを学んでいくのではないかと思います。なので、あたしは個人的には長い目で見るしかない、と思っています。
ただ、一般に日本人が、わからなければおとなしくして、周囲の様子をうかがう、というタイプなのに対して、中国人はところ構わず、自分のやりたいように振る舞う、という面があるのかもしれません。だから余計に海外で面倒なことになっているのではないでしょうか?
そんな中国人の海外でのふるまいの中で個人的に興味を引かれるのは香港や台湾の反応です。本来、香港も台湾も中国と言ってよい土地ですが、中国本土とのつきあいが増えるにつれ、自分たちとのあまりの違いに困惑し、ひどい場合には「こんな連中と同じ中国人とは思いたくない」という意見まで出ている始末。なまじつきあいが深まった固めに生じた摩擦でしょうね。
さて、日本です。
日本にもたくさんの中国人が来ているようです。日本人もかつては「一衣帯水」などといって中国人とわかり合える、根っこは同じ、的な意識を抱いている人が多かったと思いますが、昨今の反中意識の高まりで、自分たち日本人と中国人は根本的に違うと考える人が増えていると思います。ですから、日本に来ている中国人と摩擦があったとしても香港や台湾の人よりは受け止められるのではないかと思います。
いや、むしろこういう摩擦はもっと起きた方がよいのではないかと思います。そして、その摩擦をきちんとお互いに理解しないと両国が本当に仲良くなることは出来ないのではないか、そんな気がします。当面は中国人がいっぱい日本に来て買い物をしてくれる、たくさんお金を落としていってくれるから大歓迎、という中国人の訪日歓迎ムードが大勢でしょうが、個々の場面では「もう中国人は二度と来るな」的な思いをしている・した人も多いと思います。
でも、だからといって本当に来ない方がよいと思ってはいけないと思います。逆にもっともっと中国人には日本に来てもらって、実際の日本を見、実際の日本人と接してもらい、多少は日本人ともめ事を起こしつつも、日本を理解してもらいたいと思います。
日本を訪れた中国人が日本を好きになってくれなくても構いません。ただ、少なくとも日本を理解してもらいたい、とは思います。大学時代の恩師が中国からの留学生に「親日家になってくれなくても構わない。知日家になってくれ」と常に言っていたことが、今でも耳に残っているから、あたしもそう思うのでしょう。そして、そんな来日中国人とのトラブルは、本当の日中友好のための産みの苦しみだと思います。
同じ新書サイズの誼で
昨日も書きましたが、中公新書の『ビスマルク』を読んでいます。
この時代、まるで詳しくもなく、だから読みながら勉強しているところなのですが、同時代の有名人物と言えば時のプロイセン国王、後のドイツ皇帝だったり、オーストリア皇帝、ロシア皇帝などがいますが、ぱっと名前が出てくるわけではありません。ドイツくらいは、本を読んでいるところなのでヴィルヘルムと言えますが、これだっていつまで記憶に留めておけるのか……
そんな中、恐らく一般の日本人にも比較的知られているビスマルクの同時代人と言えば、フランスのナポレオン三世ではないでしょうか? 一世ほどは有名でもないし、何をした人なのか実は日本人にはほとんど知られていませんが、それでもナポレオンの甥っ子ということで名前くらいはよく知られている人出はないでしょうか?
だからなのでしょうか、彼に関する本なら何冊かありますね。とりあえずは『怪帝ナポレオン三世』でしょうか? 文庫ですのでかなりハンディーなサイズです。ただ、中公新書と並べるのであれば、同じ新書サイズの文庫クセジュ『ナポレオン三世
』はいかがでしょうか?
中公新書の『ビスマルク』を読んでいると、結構ナポレオン三世って登場するんですよね!
人文書3点、重版です
病んでます?
新しい取り組み
「人文会ニュース」に五野井郁夫さんに寄稿いただきました。その文章は既に人文会のサイトで公開されていますので、是非ご覧ください。
これまでの「人文会ニュース」は発行して関係者に配布してそれっきりでした。しかし、今回は新しい取り組みとして、この五野井さんの文章をベースに、そこで紹介・引用されている書籍を集めたフェアをいくつかの書店で開催していただくことになりました。ツイッターからご紹介しますと、まずはジュンク堂書店池袋本店。
【フェア】「現代政治の危機をのりこえるためのブックガイドフェア」開催しました!1/1の「ニッポンのジレンマ」にも出演された五野井郁夫氏の選書です。2/末頃までの予定。ジュンク堂池袋本店4階エスカレーター上がったすぐの所で開催中。(続) pic.twitter.com/r15B4f9rM9
— ジュンク堂池袋本店人文担当 (@junkuike_jinbun) 2015, 1月 22
続いて紀伊國屋書店新宿本店。
【3階人文】ただいま、注目の政治学者、五野井郁夫さんの選書フェア「現代政治の危機をのりこえるために」を開催中です。フェア冊子も配布しております。新宿本店にお越しの際はぜひともお立ち寄り下さいませ。F26棚にて。TI pic.twitter.com/4fk1qwYn6z
— 紀伊國屋書店新宿本店 (@KinoShinjuku) 2015, 2月 8
さらに、三省堂書店名古屋高島屋店。
【人文書いろいろ】「五野井郁夫セレクション―現代政治の危機をのりこえるために」を開催しております。「現代政治」はどこに向かうのか。そして、これからの「政治」に求められるものは何なのか。「人文書」だけどキーワードは「政治」です。
— 三省堂書店名古屋高島屋店 (@nagtak_sanseido) 2015, 2月 15
この他にもツイッターで見つけられなかっただけで、開催していただいている書店が何店舗かあります。
このフェアの何が「新しい取り組み」なのかと聞かれますと、まずは「人文会ニュース」発のフェアであるというところが新しいわけです。実はこういうフェア、意外と大変なのです。
ただ単に、ある出版社のフェアをやるという場合、その出版社の本だけが並ぶので、書店にも荷物がわかりやすく入荷します。ところがテーマを決めて本を集めるようなフェアの場合、書店はいろいろな出版社に注文を出さなければならなくなります。そして入荷するときも各出版社からバラバラに届くので、届いた書籍の中でどれが客注品でどれがフェアの商品なのか、あるいは通常の補充品なのか選り分けないとなりません。これは実に大変な作業です。
もちろん、その前に選書作業というフェアの一番のキモの部分があるわけですが、今回のフェアに関しては五野井さんがあらかじめ書目リストを挙げてくださっているので、書店の手間としては手順が一つスキップできたので、多少の負担軽減にはなったのかな、とも思います。
さて、やってくださっている書店の皆さん、今回のフェアのテーマを聞いて一様に興味を示してくれました。今の時期だからこそやる意義があるフェアだと賛同してくださって取り組んでいただきました。ありがたいことです。書目リストは必ずしも人文会会員社の書籍だけではありません。非会員社の書籍もたくさんあります。ここで人文会会員社の書籍に限るなんてことはしたくありません。もっとオープンに、更には書店独自にアレンジを加えて開催していただければ望外の喜びです。
3月以降も開催予定の書店があるので、目に留まったら是非歩を止めてじっくりご覧ください。