伊吹有喜 著
夫と死別、勤務先も倒産し喪失感に悩まされている美紀・48歳。最後の旅のつもりで訪れた鎌倉の山中で道に迷うが、台湾茶カフェ 「鎌倉茶藝館」の美しき老マダムに助けられ、そのまま働き始める。お茶。着物。古都鎌倉の日常。心潤す文化と人々に触れ、元気を取り戻していく美紀。そんな彼女に、年齢も性格もばらばらな二人の男性が、同時に好意を持ち始めた――。今の私に必要なのは、安らぎ? それとも、灼けるような想い?
――苦みを知るから、決められない。名手が描く、大人の女性の戸惑いと決断。
黒田基樹 著
秀吉唯一の実弟にして名代。秀長は、外様大大名をどのように「指南」し、首都大坂近郊の領国をいかに統治したか。徹底的に蒐集した史料をもとに、これまでほとんど知られていなかった、その実像に迫る。
羽柴秀長の生涯
秀吉を支えた「補佐役」の実像
黒田基樹 著
NHK大河ドラマ「豊臣兄弟」の主役、羽柴(豊臣)秀長の生涯と秀吉政権下で果たした役割とは? これまで十分に知られてこなかったその実態を、ドラマの時代考証を務める著者が明らかにする。
下楠昌哉 編
ハーンの怪奇譚を手がかりに、同時代の作家たちによる雪妖や氷魔、吸血鬼の作品を1冊に編む。生と死の境界で魅かれ合う恋人たちの物語を通し、国と時代を超え、静かな恐怖が迫る13編。
瀧浪貞子 著
死の床に就いた桓武天皇。安定した皇位継承を願う彼の〝遺言〟は、歴史を大きく動かした。ポスト桓武の時代、血なまぐさい事件が起こるなか、藤原北家は幸運を引きつけ、類い稀な才覚と政治的嗅覚を持つ者たちが、天皇家との関係を深めてゆく。藤原道長「望月の歌」をさかのぼること一五〇年、藤原摂関家はこうして生まれた。
ベン・ラーナー 著/川野太郎 訳
1997年、中西部カンザス州トピーカ。高校生のアダム・ゴードンは、恋人のあとを追って入り込んだ湖畔の邸宅がじつは見知らぬ他人の家だったことに気づいた。つかのま世界が組み替わり、アダムはその湖畔に立ち並ぶすべての家に同時にいる感覚に襲われる。同一性と、確からしさの崩壊。彼はすべての家にいたが、その家々の上空を漂うこともできた。複数の声が時代を行き来しながら、米国の現在を照射する。『10:04』の作者が、知性と繊細さをもって共同体を描きだす、小説の新しい可能性。
エテム・エルデム 著/鈴木光子 訳
本書は従来の概説とは異なり、国家体制・社会・経済に踏み込み、硬直化や経済の特質、民族・宗教の多様性と文化の広がり、十九世紀の社会変容に光を当てる。さらにヨーロッパ史と一体的に描き出し、「似て非なる」発展の姿を示すことで、単純な衰退論やヨーロッパ中心の見方、ナショナリズムによる解釈を退ける。一九八〇年代以降の史料公開やデジタル化による研究の進展を背景に、オスマン帝国史の新しい姿と今後の可能性を提示する意欲的な一冊である。
ショーペンハウアー 著/金森誠也 訳
ショーペンハウアー入門。生と苦悩と救済をめぐる、珠玉の警句の書。解説=梅田孝太。
ベルジャーエフ 著/田中西二郎、新谷敬三郎 訳
マルクス主義者から宗教哲学者へ転じた稀代の思想家によって語られる、正教精神から社会主義革命へと至るロシア民族の歴史的必然性。
平野雄吾 著
2023年10月7日、イスラム組織ハマスによるイスラエル奇襲で始まったパレスチナ自治区ガザの戦闘は、パレスチナ側の死者が6万人を超える未曽有の大惨事に至った。これは反ユダヤ主義による蛮行ではなく、長きにわたるイスラエルによるパレスチナ占領が招いた悲劇ではないか。2024年までエルサレム特派員を務めた著者は、パレスチナの人々が抱き続ける故郷喪失と抵抗の記憶を聞きとり、イスラエル国内で被害者意識が強化される構造を読みとく。その歴史から現在まで、パレスチナ問題を一望する必読の書。