ちょっと見つけました

先日落手した岩波文庫の『厳復 天演論』ですが、その時にも書きましたが、本書は本邦初の全訳だということです。つまり抄訳は既に刊行されているということになります。

そうなると既訳を探してみたくなるものです。雑誌などに発表されたものであれば、見つけるのはちょっと難しいと思いますが、たぶんこのあたりに載っているのではないかと予想は付けられます。

まずは、これも先日紹介した家蔵の叢書『新編 原典中国近代思想史』です。この第二巻「万国公法の時代」に『天演論』の序の邦訳が載っていました。序文だけなら、そこまでの分量にはならないでしょうし、序を読めばその本の要旨とか、著者の狙いが理解できるというものです。

序だけが訳されているというのは、『天演論』のエッセンスがそこに詰まっているということなのでしょう。

そしてもう一つ、平凡社の『中国古典文学大系』の第58巻「清末民国初政治評論集」にも載っているのではないかと思いました。載っているとすれば、これくらいしか考えられません。

同書を開いてみましたら、案の定、『天演論』が収録されていました。ただし、こちらも序のみでした。岩波版とは訳者は異なっていますが、『天演論』の序がこちらにも載っていたのです。そして岩波文庫は待望の全訳ということなのでしょう。

あと抄訳がありそうなのは明徳出版社の『中国古典新書』ですが、同社のサイトで検索した限りでは『天演論』は刊行されていないようです。

2025年3月21日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー

岩波書店の講座本

昨日のダイアリーで岩波文庫の『厳復 天演論』を取り上げましたが、それで思い出したことがあります。昨日も書きましたように、『天演論』が本邦初訳(全訳)ということに驚いたのですが、抄訳であればどこかにあるのかな、と思った次第です。

それで思い出したのが、こちらのシリーズ、『新編 原典中国近代思想史』(全7巻)です。「原典」とあるように、いろいろな著作の邦訳が収められている、シリーズです。中国近代史を専攻する者であれば、常に参照しなくてはならないシリーズではないでしょうか。

ところで、このシリーズ名、気づかれた方もいらっしゃると思いますが、「新編」とあります。つまりこの新編に対して旧編とでも呼ぶべきシリーズがあるのです。それが二枚目の写真です。

こちらは『原典中国近代思想史』です。同じく岩波書店から刊行されていたシリーズで、あたしが学生時代は「新編」の刊行前でしたので、こちらを使っていました。懐かしいものです。

こういうシリーズ本、かつては「岩波講座○○○」といったタイトルで数多くの種類が販売されていました。巻数はものによって異なりましたが、全巻予約した人しか買えない、興味を持った巻だけを買うことができない、そういう縛りのあるシリーズ、それが「岩波講座」でした。

あたしが大学生の頃からはそんな縛りもなくなっていたように記憶していますが、やはり岩波書店のシリーズで買っていたのが最後の写真の『原典中国現代史』です。こちらは近代ではなく現代です。そして思想系の著作だけでなく、政治経済などの著作も含まれたシリーズとなっています。

2025年3月19日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー

古典だけでなく近代も!

岩波文庫の新刊『厳復 天演論』を手に入れました。「初の全訳」とありますが、「そうか、全訳は出ていなかったのか」と改めて思いました。そして「さすが岩波文庫、こういう渋いものもちゃんと出してくれるんだ」と感心したところです。

中国の近現代史を学べば、厳復の名は外せない一人でしょうし、その場合には『天演論』の翻訳とセットで覚えるはずです。あたしもそうでした。学生時代が懐かしく思い出されます。

そんな岩波文庫ですが、今回のように近代の著作の邦訳も数多く出しています。なんとなく古典ばかりという印象がありますが、そうでもないのです。確かに、数としては古典の方がはるかに多いですが、近代だって負けてはいません。

そんな岩波文庫の近代ものとしては、ほんの一部ですが、こういったものがあります。『孫文革命文集』や『梁啓超文集』などが刊行されたときには、やはり歓喜しました。このたび厳復が出たので、あとは何が刊行されれば嬉しいでしょうか。章炳麟、康有為、蔡元培なども出して欲しいところです。

ところで、原典の邦訳ではありませんが、文庫クセジュも以前は中国ものを数多く刊行していました。文庫クセジュはフランスの作品ですが、フランスの中国学は世界のトップクラスですから研究者も数多くいますし、当然のことながら著作もたくさん出ています。クセジュにもそういった作品があり、それらの翻訳がいくつか刊行されていたのです。

めぼしいものは古本で買っていましたが、そんな中の一冊がこちら、『毛沢東』です。この他にもいろいろありますが、最近のクセジュには中国ものはあまりないのでしょうか。寡聞にしてフランスの出版事情は詳しくないので、情けない限りです。

2025年3月18日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー

原点回帰?

ミネルヴァ書房から刊行された『韓非子入門』を買ってみました。なんといっても「韓非子」は、わが心のバイブルですから、新刊が出るとどうしても食指が動いてしまいます。

そもそも、どうして韓非子なのかと言えば、かつて「履歴書代わりの暇つぶしエッセイ」の第二回で書きました。あたしと中国思想との出逢いが『韓非子』だったのです。

その後、大学四年間や大学院修士二年間で、韓非子とは付かず離れず、だいだいそんなような時代を専門に取り組んでいました。韓非子があたしのいまの人格を作り上げたと言っても過言ではないくらい影響を与えられた本です。

学生時代もとうの昔に終わり、それでもまた改めて韓非子と向き合ってみるのもよいのではないかと考えた次第です。そう言えば、二年ほど前に講談社学術文庫でも『韓非子 全現代語訳』が刊行されていましたね。もちろん買っています。やはり忘れられない一書です。

話は変わって、そろそろ涼しくなってきたので、晩酌に缶チューハイという気温でもないだろうと思い、新たに日本酒を購入しました。それが二枚目の写真です。

以前にもこのダイアリーでご紹介したことのある石川県の酒「萬歳樂」です。純米大吟醸とひやおろし、それぞれ720mlを一本ずつです。寒い季節とはいえ、あたしの場合、日本酒は冷酒です。燗は好きではありません。好きな酒が「冷やしてお飲みください」というものばかりというのもありますが。

2024年10月8日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー

ただの翻訳ではないみたい?

国書刊行会から『北京古建築』という上下本が刊行されています。

 

A4判ですから、まあまあの大きさで、各巻本体15000円という高価格です。オールカラー、上下で478頁という立派な一冊、否、二冊です。

欲しいなあと思うものの、国書刊行会のウェブサイトを見ますと、「王南著『北京古建築』(中国建築工業出版社、2015年)の日本語版である」とありますので、写真や図版がメインであれば、原書の方を買った方が安いかなと思いました。そこで東方書店のウェブサイトで原書を検索してみますと、上下巻それぞれ21890円、つまり本体19900円という値段が付いていました。なんと原書の方が高価格です。ただし現在、在庫はないようです。

輸入書は送料などもかかっているので、原価を為替レートで換算した金額よりも多少高くなることは理解しています。これを中国国内で購入したらいくらなのか(何元なのか)はわかりませんが、翻訳よりも高くなるというのはちょっと不思議です。

そこでもう一度国書刊行会のウェブページを見ますと

原著は全16章からなるが、本書はこのうち序論、紫禁城、壇廟・儒学、宮廷庭園、合院民居、仏教寺院、仏塔、道観とモスクという、とりわけ日本の読者が興味をもつと思われる8章を抜粋して再編集し、日本語へ翻訳したものである。

と書いてあります。つまり純粋な翻訳書ではなく、日本独自の再編集版なのですね。東方書店のサイトに出ている原書は上巻が445頁、下巻が405頁と日本語版の倍のページ数があります。それならば翻訳版よりも高いのも納得できるというものです。

2024年9月30日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー

全3巻なのかしら?

最近、矢継ぎ早に刊行された早川書房の《台湾文学コレクション》、あたしも購入いたしました。

詳しいことはわかりませんが、早川書房のこのコレクションは全三巻で完結なのでしょうか? 本を開いても特にそのあたりのことは何も書いていませんが、どうなのでしょうね。

あたしが全三巻だと思う理由は、この子暮れクション以前に刊行されていた作品社の《台湾文学ブックカフェ》、書誌侃侃房の《現代台湾文学選》、いずれもが全三巻だからです。いや、もしかしたらいずれも全三巻と謳っているわけではなく、続刊の構想が進んでいるのかも知れません。

ただ、現時点では第3巻まで刊行されたところで刊行はストップしています。台湾ものって全三巻がトレンドなのでしょうか。まあ、中国史では「3」というのは鼎を連想させますし、三国時代もありますから、なんとなくバランスが取れているイメージはありますけれど……

2024年8月5日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー

中国の神様とか信仰とか

あたしが学生時代に中国思想や中国史を学んでいたことは、このダイアリーを読んでくださっている方であればご存じかと思います。もう学問を離れてかなりの年月が経ちましたので、学んでいましたと言うこともおこがましいくらいですが、それでも中国関係の本は買ってしまいますし、読んでいます。

そんな大学時代の先輩が本を出されたので、早速購入しました。それが写真の左側、吉川弘文館の『中国の信仰世界と道教』です。学生時代も道教とか、そのあたりを専門にしていたのを覚えています。

かつて平凡社新書で『中国の神さま』を出して以来、中国の宗教、特に道教を中心に研究をされていて、ブレずにその道を究めていらっしゃるのだなあと、改めて頭が下がります。

中国は儒教社会と言われますが、それは知識人社会の話であって、庶民レベルでは道教だという話も学生時代に聞かせてもらいました。とにかくパワフルで、エネルギッシュな、そしてとんでもなくデキる先輩だったというのが、あたしの印象です。

2024年5月25日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー

岩波文庫の復刊を求む(笑)

中公新書から『元朝秘史』が刊行されました。この方面に詳しい方ならご存じのことと思いますが、中公新書には、以前も『元朝秘史』というタイトルの本が出ておりました。

著者が異なりますので、以前のものの改訂版ではなく、全く新しいものとして刊行されたわけです。となると、当然のことながら、以前のタイトルは既に絶版になっているのでしょうね、調べたわけではありませんが……

そして、実は中公新書だけでなく、岩波新書にも『元朝秘史』というタイトルがあるのです。ちなみに、中公新書の以前のものは岩村忍著、岩波新書は小澤重男著という名だたる大家が著したものです。

今回刊行されたものも含め、三点の新書『元朝秘史』は、『元朝秘史』の解説本、入門書です。原書である『元朝秘史』は出ていないのかと言いますと、さすがです、岩波文庫から上下本で出ています。否、出ていたと言った方がよいでしょう。現在は品切れになっているようです。

この機会に、岩波文庫の『元朝秘史』も復刊されないものでしょうか。

2024年5月23日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー

名著の宝庫?

文庫本で古典の翻訳と言いますと、やはり岩波文庫が充実していますし、他の追随を許さない圧倒的な量を誇っています。ただ中国古典について言えば、講談社の学術文庫も負けてはいません。そして知る人は知る、筑摩書房も中国古典の翻訳については、侮れないラインナップを誇っているレーベルだと思います。

古典の翻訳を出している文庫というのは、その周辺のものも充実していまして、ちょっとした研究書や概説書などが文庫本で手に入ったりするものです。今回落手したのはちくま学芸文庫の『中国古典小説史』です。

ちなみに、本書でも最初に触れていますが、中国古典における「小説」はnovelの訳語としての小説ではありません。「大説」に対する「小説」なのです。つまりは優れた人物を指す大人(たいじん)に対するつまらない人間(しょうじん)と同じような関係です。

ところで、この『中国古典小説史』というタイトルを見ると、中国学の専門家であれば、魯迅の『中国小説史略』を思い出すのではないでしょうか。少なくとも、あたしはすぐに思い出しました。

そして、その『中国小説史略』もちくま学芸文庫に翻訳があるのですよね。さすが筑摩書房です。もちろん、そちらも架蔵しています。

そもそも筑摩書房は、ちくま学芸文庫ではなくちくま文庫ですが、そちらに『魯迅文集』(全6巻)も収録されているのですよね。筑摩書房はもともと全集を手広く刊行していて、それを改めて文庫化しているものが多いわけですが、そういう過去の優良な資産が豊富な出版社というのはよいものですね。

2024年4月13日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー

名著・名作再発見!

今回のダイアリーのタイトルは岩波文庫のフェアのタイトルから採りました。正確に書くならば「名著・名作再発見! 小さな一冊を楽しもう!」だそうです。文庫だから「小さな一冊」なんですね。

それはさておき、その岩波文庫の4月の新刊に『孝経・曾子』があるのを見つけました。この数年、否、十数年、店頭で見かけることはないですが、岩波文庫には既に『孝経・曾子』があるはずです。

一枚目の写真がそれで、わが家に架蔵している一冊です。あたしが学生のころも新刊では手に入らず古書肆で購入したような記憶があります。となると市場から消えて十数年どころか、数十年は消えていたということになりますよね。

で、今回刊行される『孝経・曾子』ですが、訳者が異なります。でも岩波文庫としての番号は同じ「211-1」らしいです。ということはISBNも変わらないのでしょうか。訳者が異なるので別な本だと思いますが、同じ本の重版という扱いなのでしょうか。

とはいえ、岩波文庫ではかつても同じような現象がありました。

二枚目の写真は、今回の岩波文庫フェアにもラインナップされている中国の古典『老子』です。これは文庫の番号が「205-1」です。

『老子』ほど知られた古典ですから、岩波文庫に収録されていないわけがなく、こちらの刊行よりはるか昔、岩波文庫には『老子』が存在していました。

それが三枚目の写真です。『老子』です。こちらも番号は同じ「205-1」ですが、訳者が異なるのです。つまり今月の『孝経・曾子』と同じことが以前にもあったわけです。

いわゆる古典の旧訳と新訳ということで、時代に合わせて言葉遣いも変わるわけですから、翻訳も変化して当然です。訳者を代えて、新しく出し直すのはよいことだと思います。

もちろん言葉遣いだけでなく、古典研究も進んでいるので、それらを踏まえた訳文になるのも当然のことでしょう。旧訳と新訳でどう変わったのかを比べるのも楽しい作業です。とはいえ(この『老子』や『孝経・曾子』がそうだというわけではなく)、旧訳の方が好きだという人もいますね。あたしは旧訳と新訳を読み比べて、それぞれのよいところを味わえばよいと思うだけですが。

2024年4月6日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー