煙の樹
デニス ジョンソン 著/藤井光 訳
1963年、ケネディ大統領暗殺がラジオで報じられるシーンから物語は始まる。日本軍の捕虜になった経験をもち、戦争が人生のすべての元米軍大佐サンズと、その甥スキップによる、ベトナム戦争での情報作戦を中心に展開する。兵士として従軍するヒューストン兄弟、児童支援の看護師キャシー、大佐に付き従う軍曹ストーム、ベトナム人情報員グエンやチュンなど、大佐やスキップに惹きつけられ、翻弄され、戦争に憑かれていく登場人物たち……。作戦の全体像が見えないまま、物語はゆるやかに、うねるように進んでいく。中盤の「テト攻勢」の戦闘シーンをはじめ、荒々しい迫力をもつ描写、生き生きとした会話、凄みのある心理的内面が、随所にちりばめられる。大佐が密かに進める、<煙の樹>と呼ばれる情報作戦とは何なのか? かれらが長き旅路の果てにたどり着いた先に、果たして「救済」はあるのか?