食べたら出すのは自然の摂理

あたしの勤務先のウェブサイトで、12月の新刊ラインナップが公開されました。そこで目に付いた新刊『アジア・トイレ紀行』。

トイレが社会を映し出す! トイレから文化を理解する! トイレをめぐるカルャー・ショックを綴るユニークなエッセイ。図版多数。

アジア各国のトイレ事情、そこから垣間見える国情、なかなかに興味深い一冊となりそうです。ところで、本書とセットになりそうな一冊が現在書店店頭に並んでいます。それが晶文社の『世界自炊紀行』です。

タイトルがよく似ていますが、別に姉妹編ではありません。ただ、姉妹編と思って併売していただけたら嬉しいです。

人間、誰しも食べなければ生きていけません。そして食べたら排泄するのは当たり前です。そんな取り入れと掃き出し、それぞれを扱っているのが『世界自炊紀行』と『アジア・トイレ紀行』です。是非セットでよろしくお願いします。

アトウッドの恐れ

この十数年、あたしが学生時代に学んだ世界情勢やそれに関わる知識がどんどん更新されているように感じます。そもそも中国共産党の一党支配はとうの昔に終焉を迎えているはずではなかったのか、もっと平和な、それこそ自衛隊も最小限に縮小し、災害救助隊のような組織に換骨奪胎されているはずだと無邪気に未来を予想していました。

ソ連(←この単語も死語か?)の共産党支配が崩壊し、東西の対立はなくなったはずなのに、ソ連時代よりもさらに強権的な現在のロシア、そしてますます権力の集中が進む中国。それに倣うかのような発展途上国の開発独裁的な国々。そういう流れのトドメがアメリカのトランプ大統領の再登場なのではないかと感じます。

そんな情勢が影響しているのでしょう。これまでであればなんとなく気にはなっても、そこまで関心を抱かなかったものに再び関心が集まっているようです。書籍で言えば「民主主義」とか「権威主義」とか、本来であれば改めて新刊を出すまでもないようなテーマやタイトルが目に付きます。「アナキズム」などもここ数年のトレンドの一つではないでしょうか。

この中公新書『福音派』も、そんな流れの中の一冊ではないでしょうか。「福音派」という言葉は知っている人、聞いたことがある人も多かったかと思いますが、わざわざ新書を出すほどのものでもなかったかもしれません。それがトランプ政権の登場でにわかに脚光を浴びて刊行され、あれよあれよと言う間にベストセラーになっています。

そんな『福音派』の中にこんな箇所を見つけました。見出しは「アトウッドの恐れ」です、もちろん作家マーガレット・アトウッドのことです。どうして「福音派」を語る本の中にアトウッドが出て来るのか。

『福音派』が取り上げているのは、もちろん彼女の代表作と言ってよい『侍女の物語』です。そこに描かれている世界が福音派や原理主義的な立場が強くなった世界を暗示していると解釈できるからなのでしょう。そして数十ページ読み進めていくと

本章の冒頭で見た『侍女の物語』でのアトウッドの恐れも、ラッシュドゥーニーに代表されるような過激な主張を念頭においていたのかもしれない。

と書かれています。

アトウッドの凄さは、最近復刊された『ダンシング・ガールズ』でも読み取ることができます。『侍女の物語』よりも前に刊行された本書は、30年近くも前の作品だとは思えないほど今を描いています。今を先取りしていると言った方がよいかも知れません。

この作品から、作家はさらに当時のアメリカの情勢を観察して『侍女の物語』を生み出したのではないかと思えます。そして『ダンシング・ガールズ』は短篇集なので、どこからでも読み始められます。『侍女の物語』ともども、是非よろしくお願いいたします。

話はころっと変わりますが、アトウッドは1939年生まれで今年86歳(誕生日は11月18日)で、来月邦訳が刊行予定のミルハウザーは1943年生まれの82歳。どちらもお元気で、まだまだたくさんの作品を残して欲しいものです。ちなみに来月刊行のミルハウザーの邦訳は『高校のカフカ、一九五九』という作品です。

しばしお待ちを!

あたしの勤務先のSNSでは、新刊の見本が到着すると写真入りでポストしておりますが、その時の反響も大きく、さらにはその前の情報解禁でも大反響だった『ヘーゲル読解入門』がまもなく配本になります。ちょうど見本出しをしたところですので、いましばらくお待ちください。

新書版の上下巻、二冊揃っての発売となりますが、カバーはご覧のような感じに仕上がっております。落ち着いた色合いですね。

ただ、あたしの印象としては、和食などの定食で最後に出て来るデザートのごまアイスが思い出されました。写真では伝わりにくいかもしれませんので、ぜひ実際に書店で手に取っていただきたいと思います。

ところでこの『ヘーゲル読解入門』も含まれるシリーズ《思想の地平線》も刊行点数が八冊になりました。並べてみると二枚目の画像のような感じです。

カバーは全体として渋めの色使いで、あたしは好きですが、読者の方の印象や感想はどんなものなのでしょう。気に入ってもらえると嬉しいです。

さて『ヘーゲル読解入門』は30日配本ですから、都内の大型店などでは31日には店頭に並び始めるのではないかと思います。東京以外の書店ですと店頭に並ぶのは11月に入ってからになると思いますが、楽しみにお待ちください。

それにしても21世紀のこの時代に、ベルジャーエフやコジェーヴを刊行するなんて、きわめて珍しい出版社なのではないでしょうか。われながらそんな風に思います。

いま注目すべきはハンガリー語か、ヒンディー語か?

今年のノーベル文学賞にハンガリーの作家クラスナホルカイ・ラースローが選ばれましたが、邦訳が手に入らないので他のハンガリー作家の文学作品やハンガリーそのものに対する関心が高まっているように感じます。

それを見越していたのかはわかりませんが、来月上旬に『ニューエクスプレスプラス ハンガリー語』の音声ダウンロード版が刊行となります。現代品切れとなっているクラスナホルカイ・ラースローの唯一の邦訳作品を手掛けた早稲田みかさんが著者の語学書です。ハンガリー語というのは語学マニアの方からも支持の高い、面白い言語だそうですので、関心や興味を持たれた方は是非。

と、そんな風にハンガリー語を推すべきかと思っていたところへ、突然は逝ってきたニュース。なんと人気アイドルグループ、乃木坂46の40枚目シングルのタイトルが「ビリヤニ」だと発表されました。ファンの間では「ビリヤニって何?」という声と共に、「インド料理のビリヤニのこと?」という声が沸き起こりました。

インド料理のビリヤニ、つまりヒンディー語ですね。実は上記ハンガリー語の語学書と同日の発売なのが『ニューエクスプレスプラス ヒンディー語』なのです。そして来月下旬には『パスポート初級ヒンディー語辞典』という日本初の、ヒンディー語の学習辞典の刊行も予定されています。

となると、乃木坂46人気にあやかってヒンディー語を推すべきなのでしょうか? いや、営業としてはどちらかではなく、どちらも推していくべきですね。来月は語学に追い風が吹いているはずです!

いまホットなのは移民?

各社の新書は、その時々話題になっているものを取り上げることが多いので、各社から似たようなタイトルの新書が刊行されることがよくあります。ここ最近ですと「豊臣秀長」で検索するといったい何冊の新刊が刊行されたことでしょう。新書の他にも単行本、選書などでも出ていますが、来年の大河を控え追い切れないくらいの点数が刊行されています。

そして、ここ最近目に付くのが「移民」です。

まず集英社新書から『国家と移民』が刊行されています。この本は日本における外国人労働者の過酷な現状について書かれた一冊のようです。人口減少に悩む日本にとって移民問題は避けて通れない課題なのでしょう。果たして50年後の日本の人口構成はどうなっているのでしょうか。

そして、ちくま新書からは『ニッポンの移民 増え続ける外国人とどう向き合うか』が刊行されています。

これもタイトルからもわかるとおり、日本における移民の問題を取り上げている一冊です。先の参院選では移民反対、外国人排斥的な論調が強まった感があります。文化も生活習慣も異なる外国人が近所に増えたら、やはりなんとなく不安に感じるものなのでしょうか。

そして新書ではありませんが、もうまもなくあたしの勤務先からも『移民/難民の法哲学 ナショナリズムに向き合う』という新刊が刊行になります。

本書もやはり現今の日本における移民問題をテーマとして、そこに哲学的・社会科学的な基礎を構築しようとするものです。それにしてもこうして新刊が増えてきますと、書店でもちょっとしたコーナーが作れるし、ミニフェアができそうですね。

話は変わりまして、営業回りの途次、少し前にこのダイアリーで話題に出した一品を食べました。それが箱根そばで「のどぐろ天と舞茸天」のうどんです

写真の上の部分に写っているのが舞茸天でなかなかボリューミーでした。あたしは舞茸が好きなので美味しくいただきました。そしてその左に写っているのがのどぐろ天です。本当にのどぐろなのか、他の魚ではないのか、あたしにはよくわかりません。ただ魚だということがわかるくらいです。

やはり金沢でいただいたのどぐろとは全くの別ものですね。値段が異なりますから、当たり前と言ってしまえば当たり前なのですが。

いろいろと落手

世の多くの方はスーパーの味見コーナーが大好きのようですし、試供品が配布されていると、何はなくとももらってしまうという人も多いみたいです。かくいう、あたしもTAKE FREEは大好きです。

不景気だと言われる本屋さんにも、無料配布しているものが意外と置いてあるもので、そんなものをもらってくるのはあたしの密かな楽しみでもあります。こちらもその一つです。

紀伊國屋書店出版部70周年の記念冊子です。多くの人がよく知っている紀伊國屋書店は2027に創業100周年だそうですが、出版部があることを知っている人はどれくらいいるのでしょう? ベスト&ロングセラー『愛するということ』と言えば思い出していただけるでしょうか?

続いては,NHK出版新書『哲学史入門』の副読本です。全4巻の内容をさらに深く広く理解するための副読本が紹介されています。

本の後ろの方に参考文献が載っていたりしますが、もう少しどういう本なのかを説明しながらの文献リストになっています。こういう文献紹介は、それを読んでいるだけでも楽しくなってきますね。これを無料で配布しているなんて驚きです。

最後は無料配布の小説です。京王線の仙川駅を舞台にした作品のようです。地元に実在するお店が登場しているようで、巻末に「登場したお店」が紹介されています。

また駅ビルのテナントで使えるクーポン券や調布のイベント情報も載っていて、これまた「無料で配布してしまっていいのでしょうか」と思えるような冊子です。

小説だけですと30頁くらいなので、通勤・通学の片道で読み終わってしまえるでしょうし、学生さんなら学校でやっている「朝の読書」にも持って来いだと思います。冊子表紙は仙川駅前、改札を出て右へ折れたところのスケッチですね。よく見慣れた風景です。ふだんはもっと歩いている人が多いような気もしますが。

ちなみにこの『あの駅に願いをこめて』仙川編は第三話で、第一話が吉祥寺、第二話が南大沢で既に公開されています。

見かけたものあれこれ

時々雨が降ったり、時々薄い日が差したり、そんな不安定な一日でしたが、今日も外回りです。京王線沿線の営業で白百合女子大学へ行きました。

すると構内でこんな看板を見かけました。来週末が文化祭「白百合祭」なんですね。校舎内には写真入りのポスターも貼ってあるのを見かけましたが、その中でトークイベントがあるのでしょう。

月城かなとってすぐに顔が思い浮かびませんが、宝塚の方ですよね。いまも現役劇団員なのかわかりませんが、こういうイベントを受けているところをみると、もう退団されているのでしょう。

松本まりかは言わずもがなですね。チケットが学生はともかく一般の場合、月城かなとは2500円、松本まりかは2000円という、この500円の差はどうしてなのでしょう?

白百合女子大学の後は多摩センターへ行きました。駅から丘を登っていったところにあるココリアで、こんどはこんなポスターを見かけました。「読書リレーマラソン」とあります。

読書マラソンは聞いたことがありますが、リレーマラソンとは何でしょう? ウェブページには

市内の各図書館(行政資料室含む)で本を借り、貸出レシートをご提示いただくと、ココリア多摩センターでお得なサービスが受けられる引換券をお渡しします。

とかいてあります。面白い試みですね。たぶん、本を借りて読んで面白いと思った人の中には、自分の手元に持っていたいと考えて、書店へ行ってお目当ての本を買う人も出て来るでしょう。ココリアには丸善もありますし、そんな循環が出来上がったら嬉しいですね。

統一とはどういうことか?

今日は新刊『統一後のドイツ』の見本出しです。配本は9月29日ですので、店頭に並ぶまでしばしお待ちください。では、本書はどういう内容なのかと言いますと、タイトルがズバリそれを表わしていますが、ウェブサイトの説明を引用しますと

ベルリンの壁崩壊から三六年、今秋十月にドイツ統一から三五年を迎える現在、「東西ドイツの差」は依然として様々な分野で残り続け、とりわけ東ドイツ各州では、移民政策に異を唱える右翼ポピュリズム政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が多数の議席を獲得している。本書はこの現状への強い危機感のもと、統計やデータを駆使し、その背景にある東ドイツの社会的、政治的、文化的状況を統一前夜から現下まで論じる。

とありますように、東西ドイツ統一とは言いながらも、いまだに一つになりきれていない現実があるということのようです。では、そんな分裂時代はと言いますと、昨日のバーキンでも取り上げました河出書房新社から『壁の向こう側 東ドイツ知られざる生活 1949-1990』という本が刊行されます。なんと『統一後のドイツ』と同じ日の発売予定です。

しかし、分裂時代のドイツと言えば、あたしの勤務先だって『東ドイツ史1945-1990』という本を出しています。是非こちらも忘れずに併売していただけるとありがたいです。

バッグよりは断然安いはず!

こんな本が刊行されたのに気づきました。

ジェーン・バーキン 永遠のファッションアイコン』です。河出書房新社から出版されたばかりのようです。ウェブサイトには「いつまでもオリジナルな輝きを放つ、永遠のフレンチミューズの着こなしのすべて」と書いてあるので、タイトルどおりファッションに的を絞った一冊のようです。

この河出書房新社、バーキンが大好きなのか、12月には『ジェーン・バーキン日記』という本も刊行予定です。こちらは「完全限定生産スペシャルボックスセット」などと書いてありまして、予価はなんと19,800円(税込)だそうです。

まあ、バーキンのカバンを愛用するような人であれば、このくらいの値段はどうってことないのでしょう。ファンであれば値段も確認せずに「即買い」なのだと思います。そしてこの値段や造本からは、そういうファンを狙った本なのだと思われます。

ちなみに前者、『ファッションアイコン』の方は税込3,465円ですから、ずっとリーズナブルなお値段です。とはいえ書籍としては、まあまあなお値段です。翻訳書はどうしても高くなりがちです。

こんな2点に対して、あたしの勤務先も『ジェーン・バーキンと娘たち』という本を出しています。こちらはバーキン家族と40年来の親交がある日本人著者による書き下ろしです。税込2,970円ですので、まずはこの一冊から如何でしょうか?

すべてはここから始まった、ような気がします

今日は昼ごろから関東各地は激しい雷雨に襲われています。関東北部の山沿いだけでなく、都内もあちこちで被害が出るような雨になっています。かくいうあたしも、外回りで豪雨、雷雨に降られ、ビチョビチョになって帰宅しました。

そんな日ではありますが、朝は西の空に虹が出ていたのです。ほんの数十分か、十数分で消えてしまったようですが、あたしはきれいな虹を見ることができました。

写真の虹は朝の5時半ころ、わが家の玄関先で見上げた西の空にかかっていたものです。薄くて見えづらいかもしれませんが、白い月がちょうど虹と重なっているのがわかるでしょうか。

そんな9月11日といえば、ニューヨークのツインタワーがテロによって崩れ落ちた日です。本日ばかりは何を置いても『倒壊する巨塔』を推さなければならないでしょう。

この同時多発テロ、なんだかんだ言っても、現在に繋がる世界の混迷、不安定さのスタートではないかと思います。ここから戦争とは呼ばれない戦争、テロと呼ぶにはあまりにも大規模な争いが始まったように思うのです。いまこそ『倒壊する巨塔』から読み直し、深く考えなければならないのかもしれません。

雨に打たれ、雷鳴に怯えつつ、そんなことを考えておりました。