今回は薄いですが……

人文会の機関誌『人文会ニュース』の最新号である149号が出来上がりました。ここ数年は年に三回発行するルーティンになっていますが、今号は研修報告や会務報告がないので、最近では最も薄い『人文会ニュース』になりました。

とはいえ、ページ数が薄くとも内容が薄くなっているわけではありません。今年生誕150年のユングをテーマとした「15分で読む」は力の入ったものになりましたし、図書館レポートの上智大学中世思想研究所は専門の方以外にはあまり知られていない研究施設ではないでしょうか。そういうものを紹介できたのは非常によかったと思っています。

ちなみに「編集者が語る」は、あたしの勤務先から出ている「ロシア語文学のミノタウロスたち」シリーズについてです。シリーズの中では『穴持たずども』が異例のヒット作となり、海外文学ファンの間で話題になったのを覚えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。

そんな風にあたしの勤務先は多くの海外文学作品の邦訳を刊行していますが、その一方で海外文学のベースである外国語の学習書も負けず劣らずたくさんの種類を刊行しています。ですから、街中で外国語の看板や掲示物を見ると気になってしまいがちです。

横浜の伊勢佐木町で見かけたこんな掲示も、ついつい写真に収めてしまいたくなるのは職業病でしょうか。これは横浜吉田中学校の校舎です。そこに「あいさつはとても素敵な共通言語」として日本語のほか、英語、中国語で「おはよう」と書かれています。

右下の「Magandang umaga」がたぶん東南アジアの言葉だろうなあとは思ったものの、具体的にどこの言葉かわかりませんでした。帰宅後に調べてみたところフィリピノ語でした。編集部時代にマレー語とベトナム語の本を担当したことがあり、それとはちょっと違うなあと思っていたのですが、フィリピノ語だったわけです。

これがタイやカンボジア、ミャンマーだと、また面白い文字で表記され、それはそれで楽しい掲示になったことでしょう。それにしても韓国語がないのが不思議ですね。この中学校の児童の構成比から、これらの言葉が選ばれたのでしょうか?

風が吹けば桶屋が儲かると言うのとはちょっと違うのですけど……

先月くらいから広東語の売り上げが急進しています。あたしの勤務先で広東語と言えば『ニューエクスプレスプラス 広東語』くらいしかないのですが、これがよく売れているのです。

少し前に中公新書で『広東語の世界』が刊行され、これがよく売れているとのこと。同書とうちの「広東語」は同じ著者なので、その影響もあるのかなと思ったのですが、実はもっと大きな波が到来していたのです。

それがこちら。紀伊國屋書店新宿本店の芸術書・建築書売り場の一角で展開されていた「九龍城砦」コーナーです。九龍城ってご存じですか? あたしが学生のころはまだ香港にあったと思いますが、その後取り壊された建物です。

写真集や九龍城に関する本はいくつか出版されているので、それを集めてちょっとしたフェアになっています。そして、なぜいま九龍城なのかと言いますと、映画「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」が大ヒットしているからなのです。

どうしてこの映画がヒットしているのか、ネットを検索していただければ、熱く語っている人がたくさんいらっしゃいますので、それを読んでみてください。この映画のヒットを受けて広東語の学参が売れているのです。

振り返ってみますと、ビジネス目的がメインとはいえ、三国志やシルクロードの流行があって中国語学習者が増え、冬ソナ以来の韓流ブームに乗って韓国語の学習者が増えました。ここ数年では、BLドラマの影響でタイ語の学習書も売り上げが伸びています。そんな流れがあれば、ヒット映画の影響で広東語が伸びるというのも当然と言えば当然のことでしょう。

話は変わって、本日は各種情報番組でも取り上げられていますが、虎ノ門ヒルズの中の本屋、magma booksの開店日です。午後から訪問してきました。2フロアあって、下のフロアはテーマごとの棚になっていて、上のフロアは比較的オーソドックスな棚構成となっていました。しばらくは物珍しでやってくるお客も多いのでしょうが、一か月後、二か月後にどういう客層になっているのか、そしてどういうジャンルの本が売れているのか、とても興味があります。

そして、そもそも近隣にはジュンク堂書店のプレスセンター店、虎ノ門書房という本屋がありますが、やや距離があります。周辺人口に対する書店の少なさは、地方の「書店のない自治体」の比ではないのが東京の都心部です。このあたりのサラリーマンやOLは昼休みにちょっと立ち寄れる書店に飢えていたのではないでしょうか。

書店と言えば、少し前に立ち寄った町田の久美堂本店で、ちくま文庫のフェアが大きく展開していました。久美堂のフェアも始まって数年、しっかりと地元のお客様だけでなく出版社にも定着してきましたね。やはり、これだけ揃えて並べると壮観です。

嘘と言うか、偽と言うか、詐欺と言うか

今日は4月1日、エイプリルフールです。日本の企業はあまりやらないようですが、海外の企業ですと、思いっきり嘘の広告や告知、SNSでのつぶやきを発信して、世間の人々を惑わせる、なんてことをやって楽しんでいるようです。そういう嘘の広告に見事に引っかかってしまう通信社も過去にはあったりしましたね。

というわけで、嘘の告知ではありませんが、勤務先の刊行物で嘘に関わる書籍をいくつかご紹介します。

まずは『偽りの来歴』です。これは実話です。ドキュメンタリーでして、刊行当時、NHKだったかでも話題にしていた世界的なニュースを扱ったものです。そのため非常によく売れたという記憶が残っています。

続いては小説、『過去を売る男』です。これも小説だと書きましたが、実はこういうことって、海外ではしばしばあるようです。たとえばヨーロッパなどではナチに関わった過去を消すために、全くでっち上げの履歴を作ってくれる組織のようなものがあるそうです。本書も、ほのぼのとしたヤモリの語りで進むのですが、徐々にサスペンス色が強まってくる、非常に読んでいて楽しい一冊です。

そして最後にご紹介するのは、こちらも小説、『詐欺師の楽園』です。東欧の架空の国を舞台に繰り広げられる、贋作者の物語ですが、これもまたスリリングでもありつつ、非常にコメディ要素もある楽しい作品です。

詐欺師であり、贋作者であるというところは『偽りの来歴』に通じるものがあります。200頁程度の本なので、あっという間に読み終わってしまうことでしょう。

というわけで、エイプリルフールにオススメの三点でした。

確かに文庫では読めませんが……

最近、こんな本を見つけたので買ってみました。青弓社の『世界文学全集万華鏡』です。同社のサイトには次のように紹介されています。

本書では世界文学全集に収録され、かつ一度も文庫化されていない海外文学作品70点を厳選して紹介。河出書房の「世界文学全集」や筑摩書房の「世界文学大系」など37の全集をもとに、イギリス、ロシア、ドイツやラテンアメリカの作家の貴重な作品を案内する。

この紹介の後には同書の目次が載っていまして、どんな世界文学が文庫化されていないのかがわかります。眺めていますと、あたしのようなド素人には知らないタイトルばかりが並んでいるのですが、確かに各社の文庫で見覚えのあるような作品はないですね。文庫化されていないわけですから当然ですけど(汗)。

そんな中で目に付いたのが、比較的最初の方、イギリス文学の中にあった「ジョージ・エリオット「フロス河の水車場」」です。ジョージ・エリオットならほとんど文庫化されていそうな気がしますが、エリオットはこの他に『ロモラ』も挙がっていますので、まだまだ未文庫化の作品があるのですね。

話は戻って『フロス河の水車場』ですが、画像をご覧ください。タイトルが「水車場」から「水車小屋」にちょっと変わっていますが、エリオットの『フロス河の水車場』です。

そうです。白水Uブックスで登場したのです。もう書店に並び始めていると思いますので、「登場した」と過去形で書いても大丈夫だと思います。そして同書は過去の文学全集に収録されていたものをUブックスにしたのではなく新訳です。

確かに文庫では読めませんが、新書サイズであれば許してくださいませ。ちなみに、新書サイズではありますが、各400ページ超えの上下本です。お手軽に手に取ってくださいと言えるようなボリュームではありませんが、是非どうぞ。

そして、今後も同書に挙がった「文庫で読めない世界の名作」がUブックスで読めるようになることがあるのでしょうか?

パンダが来た道

今日、3月11日は日本人なら忘れられない一日です。ただ、申し訳ないですが、今日のダイアリーでは東日本大震災ではなく、パンダ発見について語ります。

そうです。今日3月11日はパンダが発見された日なのです。1869年のことですから156年前になります。そのあたりの事情はあたしの勤務先から出ている『パンダが来た道 人と歩んだ150年』を読んでいただければと思います。前にも書きましたが、パンダ(もちろんジャイアントパンダのことです)ってあれほど特徴的な模様をしているのに中国の歴史書には登場しません。記録魔である中国人が見つけていたら記録しないはずがないのに、歴史書の中には登場しないのです。

パンダって発見される前は、四川の山奥ではなく、もっと違う場所に生息していたのでしょうか。そうでなければ、中国の史書に出て来ない理由がわかりません。しかし、発見されてからは中国の友好外交の一翼を担って、八面六腑の活躍をしてきましたね。日本にもパンダ好きは多いです。多いどころの話ではないかもしれません。

そんなパンダ発見の日なのですが、日本でパンダの日というと10月28日だそうです。これは最初のパンダが来日した日によるそうです。これはあまりにも日本ローカルな記念日ですね。

話は変わりまして、この日曜日のお昼にマクドナルドのてりたまをいただきました。こういう季節のバーガーはついつい食べてしまいます。

どうして? どうして? どうして?

出版社にはそれぞれカラーというのがあります。もちろん、さまざまなジャンルを出している大手出版社もありますが、中小の出版社であれば、それなりに独自のカラーというものがあるものです。

そんな中、あたしの勤務先に対して世間の方はどんなイメージを持っているのでしょうか。小さいながらもいろいろなジャンルの本を出しているので、かなりバラエティー豊かなイメージを持たれているのかもしれません。そんな勤務先の最新のウェブサイト、トップページが右の画像です。

トップページには最近刊行された本が書影と共に並んでいます。一般書と語学書の二本立てで並んでいるのですが、そのうちの一般書の方が、あたしの見立てではなにやらおかしなことになっているような気がするのです。

一般書の新刊、6点が並んでいますが、そのうちの半分、3点がロシア関係の書籍なのです。チェルヌイシェフスキーは帝政ロシアの思想家、『暴走するウクライナ戦争』と『厨房から見たロシア』は言わずもがなでしょう。

振り返ってみますと、昨年の12月に『ドイツ=ロシアの世紀 1900-2020(上)』、今年に入ると1月に『ドイツ=ロシアの世紀1900-2022(下)』、そして上掲の3点が続きました。3月には『ロシア革命と芸術家たち1917-41』、4月と5月には『革命と内戦のロシア 1917-21(上)』『革命と内戦のロシア 1917-21(下)』が刊行予定です。このロシア率、何があったのでしょう?

ニュースとガイブン

世間でどれだけ話題になっているのかわかりませんが、あたし個人としては、乃木坂46三期生与田祐希の卒業コンサートに、盟友である大園桃子がサプライズ登場し、二人のデビュー曲「逃げ水」をWセンターで披露したことが、本日最大の関心事です。ネットにアップされているコンサート写真を見ますと、やはり桃子はセンターで輝く逸材だったと思います。

それはともかく、ドイツの総選挙の結果がほぼ判明しましたが、移民反対派の極右が大躍進ですね。ある程度予想はついていたこととはいえ、今後のドイツはどういう方向に進むのでしょう。

幸いなことに、まだまだ多くの移民受け入れ派、人種差別的な政策に反対する勢力が多数いることがドイツの良心を感じさせてくれます。それにしてもドイツはここ数年景気が悪いそうですから、人々の気持ちにも寛容さが失われているのでしょうか。衣食足りて礼節を知るとはよく言ったものです。

さて、そんなドイツの移民問題、政治経済の話ではなく、もっと庶民目線で理解できないものかという方にお薦めなのが『行く、行った、行ってしまった』です。引退した大学教授がドイツに辿り着いた難民との交流を深めていく物語です。この機会に是非一読していただきたい一冊です。

そして話は元へ戻って乃木坂46です。38枚目シングルが3月26日発売されるとのこと。そしてそのタイトルが早々と発表になりまして、「ネーブルオレンジ」だそうです。

このタイトルを聞いて真っ先に思い出したのが、《エクス・リブリス》の最新刊、『ブリス・モンタージュ』のカバー画像です。これがネーブルオレンジなのか否か、詳しくないあたしにはなんとも言えませんが、そうだと言ってもあながちハズレではないでしょう。

同書には、短篇が八つ収録されていまして、その中の一つに「オレンジ」という作品もあります。どんな作品かは、是非本書でご確認ください。

最後のおまけ。日向坂46の楽曲「君を覚えてない」が、冠番組「日向坂で会いましょう」で取り上げられていましたが、上掲の《エクス・リブリス》には『ぼくは覚えている』という一冊があります。こちらもなかなかに個性的な作品ですので、是非どうぞ!

翻訳者有志の会

横浜の紀伊國屋書店で、文芸担当の方にこんな小冊子をいただきました。タイトルは『ダリタリア・リブリ』とあります。

イタリア語はサッパリなあたしには、タイトルの意味はわかりかねますが、そのタイトルの上には「イタリアの本と読者を結ぶフリーペーパー」とあります。タイトルをネットで翻訳させると「イタリアの本から」と和訳されました。一つ勉強になりました。

この冊子を作っているのは、イタリア文学翻訳者有志の会だそうです。たぶん記念すべき冊子の第一号だと思いますが、22の邦訳作品と三つの未邦訳作品が紹介されています。その中には、あたしの勤務先の『まっぷたつの子爵』もありました。

とはいえ、この冊子を手に取って感じたのは、「最近、あたしの勤務先、あまりイタリア文学の邦訳を出していないなあ」ということです。世界各地の文学を満遍なく、バランスよく刊行するのはたいへんなことですね。

時代背景はあの名作コミックと同じころです

あのベストセラー『おだまり、ローズ』が白水Uブックスになりました。ちょっとページ数はありますが、新書判なのでより親しみやすくなったのではないでしょうか。

ところで本書の著者、ローズ(ロジーナ・ハリソン)が仕えのはアスター子爵夫人、ナンシー・アスターです。彼女は1879年生まれで、1964年に亡くなっています。ローズは1899年生まれなので、子爵夫人よりも20最年少ということになります。

このアスター子爵夫妻はカズオ・イシグロの『日の名残り』のモデルとも言われていますが、子爵夫人は二度の大戦をくぐり抜け、その間1919年にはイギリスで初の女性下院議員となる、英国史上ではそれなりに知られた人物です。

ローズは子爵夫人が亡くなるまで35年間仕えたということなので、アスター家に来たのは1929年ということになります。戦間期で、世界大恐慌が起きた年ですね。ほんの少し時期がずれますが、あたしが子供のころにテレビでアニメが放送されていた「キャンディ♡キャンディ」は似たような時代を扱っています。

主要登場人物の一人であるステアが戦死したのは第一次世界大戦で、そのころまでに学生生活から看護婦を目指した主人公のキャンディは、子爵夫人よりは年下で、著者のローズより少し年上なくらいだと思われます。アスター家でメイドとして働き出したころは、既に「キャンディ♡キャンディ」の描く時代よりは後になりますが、同じような時代を生きていた女性として、個人的にも親近感を覚えます。

この見出しはつまりあたしのことよね?

いよいよ今年の仕事もあと一週間というところまで来ました。そんな穏やかな日曜の朝刊に、どうみてもあたしのこととしか思えないような記事が載っていました。それが一枚目の画像です。

「子いない独居高齢男性」「孤独死の懸念も」といった見出しが躍っていますが、これってまるっきりあたしのことです。2050年の時点であたしがまだ生きているのか、それとも既に物故しているのか、それはわかりませんが、生きているとしたらほぼ間違いなく独居老人となっているでしょう。

それって、自分が選んだ人生ですから、後悔するかも知れませんが、もう諦めて受け入れる心の準備はできているつもりです。妹のところの姪っ子や甥っ子が、どれくらいあたしのことを心配してくれているのか、すべてはそれにかかっています。いまのうちに、出来るだけよくしてやらないとなりませんね(笑)。

さて、数日前に新潮文庫の『私にふさわしいホテル』と、白水Uブックスの『山の上ホテル物語』を併売してい欲しいと書きましたが、正直なところ難しいのではないかと思っています。やはり新潮文庫は書店でもしっかり専用のスペース、棚があって、新潮文庫がズラリと並んでいて、そこに白水Uブックスを紛れ込ませるスペースはありません。可能性があるとしたら、映画化書籍コーナーに二点並んで置かれることくらいでしょうか。

それに比べると、二枚目の写真の二点は間違いなく書店で並んで置かれていることでしょう。どちらも単行本ですから文芸書の海外文学のコーナーに並んでいるはずです。あるいは文芸評論などの「本に関する本」のコーナーでしょうか。

どちらにせよ、この二点は紛れもなく正編と続編の間柄ですし、四六判の単行本ですからスペース的にも並べやすい二点でしょう。新発売の「2」はドサッと積んでいる書店が多いと思います。「1」の方は散々売れた本なので、いまさらドサッと積むほどではないかもしれません。でも「2」の隣に一冊くらいは並んであったら嬉しいなあと思います。