文庫化されました

西加奈子さんも『』の中で引用していた『テヘランでロリータを読む』が「河出文庫」の一冊となって刊行されました。

自社の単行本が他社の文庫に生まれ変わるというのは、その作品が愛されているという証拠でもありますが、どうして自社で文庫化できなかったのかと忸怩たるものがあります。

それにしても、この河出文庫の装丁は如何でしょう? あたしは最初、どうしてマトリョーシカ人形なのだろう思ってしまいました。見えませんか?

もちろん単行本の装丁への敬意が感じられる装丁ですが、かなり印象が異なりますね。より身近な作品に感じられるのではないでしょうか?

そしてもうひと作品。

このところ新刊の刊行も相継いでいる台湾の作家、呉明益の『歩道橋の魔術師』が、同じく「河出文庫」となって刊行されました。

こちらも、あたしの勤務先のベスト&ロングセラー商品ですので、文庫になり更に売り上げを伸ばすことは間違いないでしょう。

装丁は、どちらも小説の舞台となった、かつて台北駅前にあった中華商場です。単行本では当時の写真を使っていますが、文庫の方はイラストに代わっています。このイラストは著者、呉明益さんの手になるものです。

このように他社から文庫が出るのは、なんとも言えない気分です。娘を嫁に出す父親の気持ちに近いのでしょうか? あたし結婚していませんし娘もいませんから、全く想像の域を出ませんが……

町中華ならぬ町本屋

先日お知らせしたミルハウザーと並んで、こちらも待ち望んでいた方が多かったと思いますが、イーヴリン・ウォーの『誉れの剣』第二巻『士官たちと紳士たち』がまもなく刊行になります。

第一巻『つわものども』が刊行されてから少し時間がたってしまいましたが、これだけの分量の翻訳ですから時間がかかるのはご容赦ください。そのぶん自信を持ってお届けいたします。第一巻の内容、覚えていらっしゃいますか? 読んでからしばらくたってしまったという方は、この機会に第一巻を今一度繙いてもよいのではないでしょうか?

さて、信販会社UCクレジットの会員誌『てんとう虫』の11月号が届きました。

今号の特集は「町本屋へ出かけよう」です。表紙は「リーディン ライティン ブックストア」です。本文の筆者は、目黒孝二、永江朗、和氣正幸の三氏。取り上げられている書店は、Title(東京都杉並区)、ブックスキューブリックけやき通り店(福岡県福岡市)、定有堂書店(鳥取県鳥取市)、往来堂書店(東京都文京区)、Readin’ Writin’ BOOK STORE(東京都台東区)、誠光社(京都府京都市)が写真入りで取り上げられています。

また「行ってみたい独立系書店」として、フリッツ・アートセンター(群馬県前橋市)、双子のライオン堂(東京都港区)、マルジナリア書店(東京都府中市)、今野書店(東京都杉並区)、隆祥館書店(大阪府大阪市)も出て来ます。

「大型書店の新しい試み」では、函館蔦屋書店World Antiquarian Book Plaza文喫HIBIYA CENTRAL MARKETが紹介されています。さらに「本屋のいろいろな形」として取り上げられているのは、八戸ブックセンターBOOK TRUCKBOOKSHOP TRAVELLERです。最後には山陽堂書店三月書房に関するエッセイも載っています。

ところで、この数年、「町中華」という言葉が知られてきました。チェーン店や流行りのラーメン屋ではなく、昔からあって家族で食べに行ったり、サラリーマンが一人で立ち寄ったりする、中華屋さんのことです。今回の「町本屋」も、そんな町中華という言葉からの連想で生まれた言葉でしょうか?

ATOKのAI変換で「みる」と入力すると「ミルク」とか「ミルフィーユ」が候補に出るけれど「ミルハウザー」はすぐに出て来ない問題について

今月末に刊行になる、スティーヴン・ミルハウザーの『夜の声』はこんな装丁です。

訳者あとがきで柴田元幸さんが書いていらっしゃいますが、原書は邦訳既刊の『ホーム・ラン』と合わせて一冊の短篇集でした。しかし、そのままのボリュームで日本語版を刊行するのは難しいということで半分に分け、『ホーム・ラン』『夜の声』として刊行することになったわけです。

『ホーム・ラン』を読まれた方は、この『夜の声』をまだかまだかと一日千秋の思いでお待ちいただいていたことでしょう。ですが、もうすぐです。来週末には書店店頭に並ぶはずです。

夜の声だらけ?

今月末に、スティーヴン・ミルハウザーの新刊『夜の声』が刊行されます。楽しみに待っているファンの方も多いと思います。

ところで「夜の声」でネット書店を検索すると同じタイトルの書籍がいくつもヒットするのに驚かされました。

未知谷の『夜の声』はナタリーア・ギンツブルグ(ナタリア・ギンズブルグ)の作品。創元推理文庫の『夜の声』はW・H・ホジスンの作品です。

日本人作家のものもあります。新潮文庫の『夜の声』は井上靖の作品。『夜の声』というタイトルの詩集も刊行されています。

その他にも現在は品切れになっている作品まで含めると、かなり多くの「夜の声」が出版されているようです。書店に注文される時は、くれぐれもお間違いのないようにお願いいたします。

それでも選挙に行く、行った、行ってしまった

先日、日本翻訳家協会の翻訳特別賞を受賞したのは《エクス・リブリス》の『行く、行った、行ってしまった』でした。お陰様で、受賞後は順調に注文が伸びています。

本書は、もちろん小説なのですが、読んでいるとノンフィクションのような、テレビのドキュメンタリー番組を見ているような気になります。恐らく著者が綿密な取材をして、この作品に描かれたようなエピソードのいくつかは実際に起こった出来事なのではないかと思われます。

端的に言ってしまえば、ドイツに押し寄せた難民を扱った物語です。ドイツというと移民の受け入れなどで比較的寛大な態度を見せるメルケル首相を代表として、温かい国といったイメージがあります。その一方で移民排斥を訴える国民の声もじわじわと高まっていて、やはりこういう問題は一筋縄ではいかないと考えさせられるものです。

しかし、本作ではそんな大きな問題を扱うのではなく、ごくささやかな、とても個人的な体験、経験、思いが描かれています。使い古された言葉ですが、首脳同士の会談だけでなく民間レベルの草の根の交流が大事だという言葉が思い起こされる作品でした。

そして衆議院も解散となり、俄然注目を集めている新刊が『それでも選挙に行く理由』です。

決して日本の選挙制度について書かれた本でもなければ、日本の選挙について分析した本でもありません。

ただ、だからこそ選挙に潜む問題点、選挙が抱える矛盾がよくわかるのではないでしょうか? 今回の選挙を熱心に分析している週刊誌の記事もよいですが、まずはこういう本で選挙について俯瞰してみるのも大事ではないでしょうか?

それはそうと、ここへきて「行く」がタイトルに入っている本が二点、売れているのは何か理由があるのでしょうか? ただの偶然でしょうか? 「白水社はどこへ行く」のでしょうか? まずは31日には「それでも選挙に行く、行った、行ってしまった」となりますように!

ウェブサイトのリニューアル

本日は午後から人文会の勉強会(研修会)でした。人文会の会員社である勁草書房のウェブサイトリニューアルの顛末を語ってもらう、というものでした。

各社、もちろんウェブサイトは運営していますが、どうやったら見やすいか、どんな機能があれば便利なのか、担当者の悩みは尽きないと思います。そんなウェブサイトに関するケーススタディという感じでした。

ちなみに、あたしは自社のウェブサイトには一切関わっていないので、特に益するところはなかったですが、それでもなかなか興味深い話が聞けました。

ちなみに、勁草書房もそうですが、あたしの勤務先もとうこう・あいという会社が提供するHONDANAというフォーマットを使っているそうです。なにせ、ノータッチなのでそういうことも知らずに本日のレクチャーを聞いたわけです(汗)。

ところで勁草書房というとどういう出版社のイメージがありますでしょうか? 出版ジャンルは多岐にわたっていますが、あたしは中国思想、中国哲学の専門書を刊行している出版社、というイメージを長いこと持っていました。

何故かと言いますと、写真にあるような本、これらはすべて勁草書房の刊行物です。現在はすべて品切れみたいですが、あたしが学生時代にはこういった本を精力的に出していたのです。時代が感じられるのか、あるいは当時の勁草書房の特徴なのか、ビニールカバーの掛かった本が多かった印象です。この4冊どれもビニールカバーが掛かっていますので、経年劣化なのか、ちょっとべたついています(爆)。

でも、いい本出していましたよね。当時のあたしにはまだ手が出なくて購入していなかった本がこれ以外にもたくさんあって、大浜晧さんの作品が多かったと記憶しています。

そんなイメージを持っていた勁草書房ですが、昨今は中国ものと言えば現代中国社会を扱ったものが多くなっているようです。否、古代中国思想ものはほぼ全く出していないのではないしょうか? 出版傾向が変わるのは致し方ないですが、中国学を学んでいた者にとってはちょっと寂しくもあります。

哲学の女王からソロデビュー?

晶文社から今年の5月に刊行された『哲学の女王たち』という本があります。

タイトルからおおよその内容はわかると思いますが、西洋史の中で知的活動を行なっていた女性たちにスポットをあてた評伝集のような本です。取り上げられている女性は、ディオティマ、班昭ヒュパティア、ララ、メアリー・アステル、メアリ・ウルストンクラフト、ハリエット・テイラー・ミル、ジョージ・エリオット(メアリー・アン・エヴァンズ)、エーディト・シュタイン、ハンナ・アーレントシモーヌ・ド・ボーヴォワール、アイリス・マードック、メアリー・ミッジリー、エリザベス・アンスコム、メアリー・ウォーノック、ソフィー・ボセデ・オルウォレ、アンジェラ・デイヴィス、アイリス・マリオン・ヤング、アニタ・L・アレン、アジザ・イ・アル=ヒブリの20名です。

欧米の読者であればよく知っている名前ばかりなのかもしれませんが、あたしにはとんとチンプンカンプンで、赤字にした4名くらいしか知りません。

そんな中、緑字にしましたヒュパティアは来月半ばにあたしの勤務先から評伝が刊行になります。タイトルは『ヒュパティア 後期ローマ帝国の女性知識人』です。内容は「優れた数学者・哲学者として弟子から政界と宗教界に要人を輩出しつつも、政治的対立に巻き込まれ非業の死を遂げた女性の、伝説と実像」というものです。

晶文社の本を読んで興味を持たれた方、ぜひ本書を手に取ってみてください。

いろいろありまして……

宣言が解除になり、書店回りも10月から再開しています。やはり書店回りは楽しいですね。

そんな書店回り、本日は久しぶり、本当に何ヶ月ぶりでしょう、横浜まで足を延ばしました。その横浜、有隣堂のルミネ横浜店の文書コーナーでこんなフェアを見つけました。

筑摩書房と白水社のシェイクスピア読み比べフェアです。同じ作品を上下に並べ、その間に読み比べポップを配置してくださっていて、これならお客様も楽しんでくれるだろうという展開になっています。

さて、そんな本日、10月7日はナタリア・ギンズブルグの没後30年です。

白水Uブックスに『ある家族の会話』『マンゾーニ家の人々(上)』『マンゾーニ家の人々(下)』の3点が入っていて、気軽に読むことが可能です。この没後30年にあたって、しばらくの間品切れになっていた『マンゾーニ家の人々』も重版しましたので、この機会にぜひ。

さて、今月の中旬には配本になりますが、ゼーバルトの新装版も今回の『カンポ・サント』で一段落となります。全部で6冊となりました。

たまたま本日はノーベル文学賞の発表日ですが、ゼーバルトも存命であればきっと受賞しただろうと言われる作家の一人ですね。

ただ、受賞せずに亡くなりましたけど、そう言われるだけの作家なわけですから、受賞の有無にかかわらず、これからも読み継がれていって欲しいと思います。

創刊70年です

PR誌『白水社の本棚』2021秋号が完成しました。

今号は、今年創刊70周年を迎えた文庫クセジュの特集です。

創刊70周年ということは、『ライ麦畑でつかまえて』『ハドリアヌス帝の回想』それぞれの原書が刊行されたのと同じ年月です。ある意味、同い年と言えるわけですね。

そんな文庫クセジュのフェア、この秋にいくつかの書店で開催予定です、否、既に開催している書店もあります。この機会に復刊した銘柄もありますので、お近くの書店をのぞいてみてください。

ちなみに、文庫クセジュは既に多くの銘柄が品切れとなっています。残念ですが致し方ありません。

仕方なく、古本屋などで見つけたときに買い求めた文庫クセジュが二枚目の写真です。同じアイテムを複数冊買ってしまっているのもありますが……

いまから思うと、こんなテーマのものも出していたんだ、というアイテムが意外と多いです。今後も、クセジュだからこそのテーマのものを出していければと思います。