既に原書を手にされている方へ

いよいよ配本になったミルハウザーの新刊『ホーム・ラン』ですが、原書のタイトルは『Voices in the Night』で、ミルハウザーの16の短篇が収められた作品です。

原書まで追いかけている熱心なファンであれば、原書と比べて「おやっ」と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか? なぜなら今回の『ホーム・ラン』には8作品しか収められていないからです。そのあたりの事情は公式サイトにも

スティーヴン・ミルハウザーの最新短篇集Voices in the Nightは、2冊に分けて刊行する。まず1冊目が、それぞれ多彩な奇想に満ちた8つの宇宙が詰まった本書『ホーム・ラン』だ。(2冊目は『夜の声』[仮題]として2021年刊行予定。)

と説明されています。「訳者あとがき」でもう少し言葉を補いますと、

(前略)本来ならその十六本を翻訳書でもそのまま一冊の本に収めればよいはずなのだが、そこで生じるのが、厚さの問題である。一般に、アメリカで出版される小説は日本より厚めである。人気作家であれば毎年二、三冊本を出すことも多い日本とは違って、アメリカでは作家が数年かけて一冊の長篇を出すだけのことも珍しくない(生活の手段は、大学で教えるなど、別のやり方で確保する)。勢い、一冊一冊は厚くなる。これは短篇集でも同じで、日本だったら二冊、三冊分あるんじゃないかと思える分量が、一冊のなかに収められていることも多い。そしてこの Voices in the Night もまさにそうで、このまま翻訳書を出すとおそらく五百ページを超える分量になる。それは日本の出版事情を考えるとさすがに少し長いのではないかと…(後略)

ということで、ミルハウザー氏に断わって二分冊にして刊行することになったのです。残りの8作品刊行まで、楽しみが増えたと思って、いましばらくお待ちくださいませ。

他人の褌ならぬ、ポップで相撲を取ってみた?

書店に置いてあったのでいただきました。集英社刊、千早茜著『透明な夜の香り』の拡材です。

一番右側の小冊子(ミニパンフレット)は、どの出版社でもよく作っている拡材ですから、さほど珍しいものではありません。興味を惹かれたのは真ん中のポップです。なんと、香水の瓶の形をしているのです。

香りは、永遠に記憶される。きみの命が終わるまで。元・書店員の一香がはじめた新しいアルバイトは、古い洋館の家事手伝い。その洋館では、調香師の小川朔が、オーダーメイドで客の望む「香り」を作る仕事をしていた。人並み外れた嗅覚を持つ朔のもとには、誰にも言えない秘密を抱えた女性や、失踪した娘の手がかりを求める親など、事情を抱えた依頼人が次々訪れる。一香は朔の近くにいるうちに、彼の天才であるがゆえの「孤独」に気づきはじめていた――。「香り」にまつわる新たな知覚の扉が開く、ドラマティックな長編小説。

上掲の引用は本作の内容紹介で、読めばわかるように、このポップは作品の内容に合わせて作られたものです。といはいえ、それにしても凝ったポップですね。ここまでやるのか、とちょっと敬服してしまいました。

しかし、それなら、このポップ、むしろ文庫クセジュの『香水 香りの秘密と調香師の技』のポップとして使った方がよりふさわしいのではないかと思い、ちょっとそれっぽく置いてみたのが上の写真です。如何でしょう?

コッカー・スパニエルというのがどういう犬なのか、あたしはよくわかっていません

新刊『フラッシュ 或る伝記』が好調です。もうじき重版が出来上がってくる予定です。

本書の著者はヴァージニア・ウルフですから、一定数の読者、ファンはいるでしょう。ですから、そういう方々がまずは購入してくれているのだと思います。

でも、本書の場合、主人公は犬です。ヴァージニア・ウルフより少し前の時代に実際に存在した詩人とその飼い犬の物語で、それをウルフは飼い犬の視点で描いている作品なのです。ですから、ヴァージニア・ウルフの作品と言うよりも、犬好きのための小説として知られた方がより広範囲な読者を獲得できるのではないかと思います。

ということで、重版に当たって用意したポップは、犬のイラストを大きく扱って、イヌ派の読書人にアピールしています。作品に登場する犬がコッカー・スパニエルなので、そのイラストになっていますが、あたしはこの犬種についてはよく知りません。もちろん犬種自体は知っていましたが、その言葉を知っているというだけで、どんな特長があるのか、原産国はどこなのか、そういったことはまるで知りません。

でも、それくらいの知識の人間でも、この作品は大いに楽しめましたし、多くの犬好きの人に読んでもらいたい一冊です。

思いのほか、ビザンツ出版社でした

中公新書から『ビザンツ帝国 千年の興亡と皇帝たち』が刊行されました。ものすごくそのものズバリなタイトル、とっくに同じタイトルの本が出ていたのではないかと思ってしまうほどストレートです。しかし、どうやら中公新書ではお初のようです。

著者は中谷功治氏。あたしの勤務先でも『ビザンツ 驚くべき中世帝国』(残念ながら現在品切れ)の訳者に名を連ねています。つまり、あたしの勤務先でもビザンツ帝国に関する書籍を刊行しているということです。

いえ、「刊行している」なんて他人事のような書き方は正確ではありません。むしろ日本の出版社の中ではビザンツ帝国に関する書籍の刊行が多い方に入るのではないでしょうか? その証拠に本書巻末の参考文献に、あたしの勤務先の刊行物が多数掲載されています。主に文庫クセジュですが、在庫のあるものでタイトルを挙げてみますと以下のようなものがあります。

コンスタンティヌス その生涯と治世

ベルトラン・ランソン 著/大清水 裕 訳

キリスト教を認め、自ら信徒となった初のローマ皇帝。キリスト教信仰が前面に出る傾向があるが、新都創建につながる多くの建設事業を手掛けるなど皇帝としての施策の評価も記述。

ディオクレティアヌスと四帝統治

ベルナール・レミィ 著/大清水 裕 訳

紀元後3世紀、危機的状況にあったローマ帝国を立て直し、さらに数百年間存続させることを可能にした改革事業と、四帝統治体制の成立から結末までを、近年の研究に基づいて解説。

古代末期 ローマ世界の変容

ベルトラン・ランソン 著/大清水 裕、瀧本 みわ 訳

3~6世紀の地中海世界(末期ローマ帝国)を衰退期とみなすのではなく、新たな社会が生まれた時代としてとらえている。古代から中世への変遷を行政、宗教、芸術面など多角的に叙述。

ヨーロッパとゲルマン部族国家

マガリ・クメール、ブリューノ・デュメジル 著/大月 康弘、小澤 雄太郎 訳

ローマと蛮族の接触によって、西欧社会はどう変容したのか。最新の研究成果を盛り込み、ゲルマン人諸部族の動勢に的確な展望を与える。

皇帝ユスティニアヌス

ピエール・マラヴァル 著/大月 康弘 訳

かつての地中海世界を取り戻そうとした、6世紀のビザンツ皇帝――ユスティニアヌスは、西欧法体系の礎『ローマ法大全』を完成させた。その多彩な事績を示す、信頼のおける歴史書。

なお、参考文献で挙がっている『歴史学の慰め アンナ・コムネナの生涯と作品』はまもなく刊行予定ですので、しばしお待ちください。

歴史学の慰め アンナ・コムネナの生涯と作品

井上 浩一 著

歴史が男の学問とされていた時代に、ビザンツ帝国中興の祖である父アレクシオス一世の治世を記した、皇女の生涯をたどり作品を分析する。

また参考文献には挙がっていませんが、やはり文庫クセジュの最新刊『ローマ帝国の衰退』もビザンツ帝国に関連する記述に溢れています。

ローマ帝国の衰退

ジョエル・シュミット 著/西村 昌洋 訳

文明は「歴史の苦難や破局を乗り越えて存続するもの」という見地から、いまもヨーロッパに刻印を残し続ける「ローマ」を描き出す。

シャルロッテとシャルロッテの絵手紙

ここ最近であたしがもっともお勧めするのが『シャルロッテ』です。

フランスの作品ですが、内容はアウシュヴィッツで命を落としたユダヤ人天才画家シャルロッテの生涯を追想するものです。詩を読んでいるような、切れのよい文章スタイルで長篇ではありますが、どんどん読み進められる作品です。そして、あたしは不勉強にもシャルロッテという存在を本書を読むまでまるで知らなかったのです。いや、たぶん多くの日本人がそうだったのではないでしょうか?

しかし、シャルロッテは是非たくさんの日本人に知って欲しい人物の一人です。とはいえ、いきなり海外文学の長篇では、いや長篇と言うほど長くはないのですが、それはそれなりに読み慣れているあたしだからの感想かも知れませんが、分量の割りにどんどん読めることは間違いありませんので、是非とも手に取っていただきたいところなのです。

ただ、それでも海外文学はちょっとなあ、という方にお勧めなのが写真の右側の本です。あたしも読後にシャルロッテについて検索していて知った本、『シャルロッテの絵手紙』です。2015年にこんな本が日本で出版されていたのですね。

同書は、シャルロッテの遺した絵画を元に、あくまで日本人の著者がシャルロッテが日本人に語りかけるという形を取ったもので、本文はシャルロッテが書いたものではありません。シャルロッテの手になるのはほとんどのページに載っているイラストの方です。シャルロッテの手頃な画集などが日本にない以上、彼女の作品を見るには本書くらいしか手段はないのではないでしょうか?

新刊『シャルロッテ』を読んで、彼女の作品を見てみたいと思った方にはうってつけの本かも知れません。

お勧めします

収まるどころかヨーロッパにまで波紋を広げているアメリカの人種差別反対デモ。

なんとなく対岸の火事、他人事のように感じている日本人も多いのかな、とも思いますが、その東京でもデモが行なわれました。

となると日本人としても海の向こうの話で済ますわけにはいきません。やはりその歴史、根っこに何があるのか知らないとならないでしょう。そこで『業火の試練 エイブラハム・リンカンとアメリカ奴隷制』は格好の入門書になると思います。来る6月19日はアメリカ全土で奴隷制が禁止になった日です。このタイミングで書籍を揃えてみるのもよいのではないでしょうか?

人種差別デモから銅像撤去へ

アメリカ発の人種差別反対デモがヨーロッパにも広がり、更にはデモだけではなく、奴隷制を擁護したと見なされる歴史上の偉人の銅像を撤去する動きにまで拡大しています。

 

そんな中、イギリスでは第二次世界大戦の英雄チャーチルの銅像が撤去されそうになっているそうです。日本人にとってチャーチルと言えば葉巻を加えた小太りな爺さんのイメージくらいでしょうか。実際に彼がどんな奴隷感なり人種観を持っていたのか知りませんが、あの時代のイギリス人であれば、植民地の人間に対して差別的な見解を持っていたのではないかと思われます。 そんなチャーチルと植民地独立運動の英雄であるガンディーという二人の巨人を描いたノンフィクション『ガンディーとチャーチル(上)』『ガンディーとチャーチル(下)』、この機会に是非手に取ってみては如何でしょうか?

今年もDデイでした

昨日は6月6日、いわゆるDデイでした。

 

となるとお勧めしたいのは『ノルマンディー上陸作戦1944(上)』と『ノルマンディー上陸作戦1944(下)』の上下本です。

お陰様で毎年この時季には売り上げを伸ばしていましたが、今年は在庫僅少になってしまいました。残念です。

あと一冊!

来週、ゼーバルトの『目眩まし』が見本出しです。

アウステルリッツ』『移民たち』に続いて三冊目、あと一冊、『土星の環』を刊行して一区切りです。

お陰様でよく売れています。過去に買いそびれていた人が、この機会に改めて読んでみようということでお買い求めいただいているようです。ありがたいことです。

ようやく三つ揃いました

あたしの勤務先はカタログを三種類、作っています。

出来上がる時期は少しずつ異なるのですが、このほどようやく最後の一冊「ブックカタログ」が出来上がり、ご覧のように三つ揃いました。

語学書は春先に、新書は5月半ばにそれぞれ出来ています。こんな時季に出来上がって「2020年版」というのはどうなのでしょう? 個人的には「2020-2021年版」とすべきではないかな、という気もしています。

また、読者の方はどう思っているのでしょうか? 2020年版というと「2020年に刊行された書籍まで載っている」と思うのでしょうか? このあたりの掲載範囲と年版の命名、出版社によってずいぶんと異なりますね。