創刊70年です

PR誌『白水社の本棚』2021秋号が完成しました。

今号は、今年創刊70周年を迎えた文庫クセジュの特集です。

創刊70周年ということは、『ライ麦畑でつかまえて』『ハドリアヌス帝の回想』それぞれの原書が刊行されたのと同じ年月です。ある意味、同い年と言えるわけですね。

そんな文庫クセジュのフェア、この秋にいくつかの書店で開催予定です、否、既に開催している書店もあります。この機会に復刊した銘柄もありますので、お近くの書店をのぞいてみてください。

ちなみに、文庫クセジュは既に多くの銘柄が品切れとなっています。残念ですが致し方ありません。

仕方なく、古本屋などで見つけたときに買い求めた文庫クセジュが二枚目の写真です。同じアイテムを複数冊買ってしまっているのもありますが……

いまから思うと、こんなテーマのものも出していたんだ、というアイテムが意外と多いです。今後も、クセジュだからこそのテーマのものを出していければと思います。

9月のご案内

10月に入ってしまいましたが、先月9月に送信したご案内ファクスを改めて紹介いたします。

  

まずはコミック・アニメで大人気「ゴールデン・カムイ」にも登場するという北海道の軍隊をテーマとした一冊、『第七師団と戦争の時代』です。刊行直後から「ゴールデン・カムイ」と併売していただいている書店も多かったようで、コミックの最新刊がまもなく発意ばいということでご案内しました。

続きましては、毎月恒例の「今月のおすすめ本」です。さらに『週刊新潮』での紹介で注文が伸びた『アウトロー・オーシャン』です。こちら、惹句どおり、無法地帯である大海原を描いたノンフィクションです。

  

アニヴァーサリーのご案内もあります。

10月初旬にフラン・オブライエンの生誕110年が廻ってくるので、Uブックスに収録されている3点のご案内です。そして売れ行き好調で重版が決まった語学書、『DELF B1・B2対応 フランス語単語トレーニング』です。DELFという言葉もここへ来てようやく知られるようになってきたと思いますが、まだまだ準拠した学参が少ないので、本書が重宝されているのだと思います。

そして刊行直後から絶好調の『ブックセラーズ・ダイアリー』です。やはり本が好きな人って、こういうテーマの本を放っておくことはないのですね。

  

ドイツの移民問題を取り上げた、まるでノンフィクションのような作品『行く、行った、行ってしまった』です。メルケル首相の退陣で今後のドイツがどうなるのかわかりませんが、メディアではあまり伝えられないドイツの別の側面が垣間見られる一冊です。

さらに10月は辛亥革命110年になるので、関連書籍のご案内です。また超ロングセラー、ベストセラーである『発声と身体のレッスン』もご案内しました。ちなみに「身体」を「からだ」と読んで電話注文をくださる書店さんもいらっしゃいますが、「しんたい」と読みますので、念のため。

 

そして、9月二回目の『アウトロー・オーシャン』です。前回の『週刊新潮』に続き、日本経済新聞でも紹介が載り、更に注文が殺到し重版が決まりました。

9月最後のご案内は、こちらも超ロング&ベストセラー、『ハドリアヌス帝の回想』です。本書の原書が今年刊行70年ということでのご案内です。これだけのロングセラーにもかかわらず、気づくと棚から消えている店舗もあるかと思いますので、この機会に今一度ご確認いただければと思います。

今日の配本(21/09/30)

あるヒトラーユーゲント団員の日記 1928-35
「総統に仕えた」青年シャルの軌跡

アンドレ・ポスタート 編著/須藤正美 訳

ドイツの小都市の知識階級の家庭に生まれ育ったシャルは、15歳から22歳まで詳細な日記をつけていた。時代はヒトラーが政権に就いた前後であり、日記の記述の中心は青少年期を決定づけた「ヒトラーユーゲント」との関係だ。シャルはナチズム運動に身を捧げ、総統を崇拝して成長する若者の生活と心情、各組織や団体の内情を生々しく筆記しており、編集・解説・注釈が補足された本書は、重要な一次史料といえる。

『眠りの航路』と三島由紀夫

呉明益の新刊『眠りの航路』の重版が決まりました。

オビだけを読むと戦争をテーマにした重苦しい作品なのかなという印象を受けるかも知れませんが、そんなことはありません。もちろん台湾から日本にやってきた少年工たちの戦争との関わり方が描かれていますので、戦争が大きな背景になっていることは確かです。ただ、そこには暗さとか重さといったものは、少なくともあたしには感じられませんでした。もしかすると、これが呉明益世代の台湾人にとっての戦争との距離感なのかも知れません、

そして、今回は日本の読者に対して大いにアピールしたいのは、本作に出てくる日本人青年の平岡君です。彼については本作の公式サイトにも内容紹介で以下のように触れられています。

三郎が暮らした海軍工廠の宿舎には、勤労動員された平岡君(三島由紀夫)もいて、三郎たちにギリシア神話や自作の物語を話して聞かせるなど兄のように慕われていたが、やがて彼らは玉音放送を聴くことになるのだった――。

そうです、平岡君とは後の三島由紀夫のことなのです。

この件については、本書の訳者あとがきにも書かれていますので、興味ある方はこちらを読まれてから本文に進まれるのもよいでしょう。また訳者の倉本知明さんは別途noteにもこの件について興味深い文章を掲載されています。

さらに原作者・呉明益さんも『我的日本 台湾作家が旅した日本』所収の「金魚に命を乞う戦争――私の小説の中の第二次世界大戦に関するいくつかのこと」で三島由紀夫と高座について書かれています。是非、こちらも読んでいただければ幸いです。

なお呉明益さんは10月下旬に河出書房新社から『雨の島』という新刊が刊行になりますので、そちらも是非お楽しみに。

今日の配本(21/09/28)

ベルベル人
歴史・思想・文明

ジャン・セルヴィエ 著/私市正年、白谷望、野口舞子 訳

マグリブ(北アフリカ)の地に、太古の昔から住むベルベル人。その集団内部には、さまざまな文明圏からやって来た多様な集団が存在していた。地中海の諸帝国が崩壊した後のあらゆる生き残りでもあり、また飢饉によってイラン高原から移住して来た遊牧民のあらゆる痕跡でもある。さらに、諸民族の侵入、トルコ人の逃亡奴隷や、さまざまな出自の敗残者や海岸にたどり着いた遭難者たちが、肥沃な土地を求めてマグリブの地に相次いで到来した。やがて、ベルベル人は、数世紀にわたって、ローマには学者を、キリスト教には教会の司教を、イスラームの帝国には王朝を、イスラーム教には聖者を供給することになる。本書は、「日没の島」「ローマの穀倉」と呼ばれる地に住むベルベル人を、言語学、考古学、歴史学、民族学、社会学、建築学、芸術、食文化、服飾といった多様な側面から論じる。

詐欺師の楽園

ヴォルフガング・ヒルデスハイマー 著/小島衛 訳

金持ちで蒐集家のおばに引き取られたアントンは15歳で絵を描きはじめた。完成した絵は不謹慎な題材でおばの不興を買ったが、屋敷を訪れたローベルトおじは絵の勉強を続けるよう激励する。実はこのローベルトこそ、バルカン半島の某公国を巻き込み、17世紀バロック絵画の架空の巨匠をでっちあげて、世界中の美術館や蒐集家を手玉に取った天才詐欺師にして贋作画家だった。17歳になったアントンはおじの待つ公国へ向かったが、そこでは予想外の運命が彼を待っていた……。虚構と現実の境界を鋭く軽妙に突く諷刺小説であり、芸術小説でもある本書は、一部の幸福な読者によって秘かに偏愛されてきた。戦後ドイツ文学に異彩を放つゲオルク・ビューヒナー賞作家の知られざる傑作。

断捨離してみました

名刺ってどんどんたまるものです。

最近は、デジタル名刺のようなものも出て来ていますが、やはりビジネスの世界はまだまだ紙の名刺がバリバリの現役です。ですから、整理しないと増えていく一方です。

あたしはA4判のファイル数冊に、営業部に遷って以来の名刺をまとめているのですが、このたび全部処分することにしました。だって、もう何年も見返すことなんてなかったですから。

持っている名刺は大きく分けて、他の出版社の人、取次会社の人、書店の人になります。こう言ってはなんですが、ほとんどの人は記憶がありません。申し訳ないです。これでは何のための名刺交換なのか……

それにしても、書店をはじめ今となってはもう存在しないところが多々あったのは、少し寂しくなりました。この数十年の業界の栄枯盛衰が感じられます。もちろん今も現役、仕事でしょっちゅうお世話になっている方も大勢いらっしゃいましたが、悲しいことに亡くなられた方も何名か……。

ちなみに、いま担当している書店の方の名刺は机の抽斗に整理していますので、今回処分したファイルは過去に担当していた書店のものなので、今となってはまるっきり変わってしまっているのでしょうね。

先にこっちを読むべし?

呉明益の新刊『眠りの航路』は、眠り、睡眠がキーになっている作品です。

決して『名探偵コナン』の「眠りの小五郎」をもじったわけではありません(汗)。

それはともかく、眠りがキーワードではありますが、戦時中日本軍に徴用され日本の兵器工場で働かされた台湾人の悲哀がベースとなっています。ただ「訳者あとがき」にもあるとおり、悲哀ということで戦争を非難しているとか、日本国の戦争犯罪を告発しているとか、そういった重さはありません。実に淡々としています。

そして主人公と父親との関係性が大きな軸になっていますので、最近文庫になった『自転車泥棒』という作品が思い起こされます。この二冊は間違いなく併読すべき作品です。

ただ、戦争の話は暗い、重苦しいと感じられるのであれば、まず先に『我的日本 台湾作家が旅した日本』を読むことをおすすめします。これは十数名の台湾作家による日本旅行記をまとめたものですが、その中に呉明益の訪日録も収録されています。それがそのまんま『自転車泥棒』『眠りの航路』の創作ノートになっていると言っても過言ではありません。これを読んでから上掲2作品を読むと作品の背景やどうしてこの作品が書かれたのか、書かなければならなかったのかが理解できるでしょう。

そして、『眠りの航路』でも作品の舞台では済まないほど存在感をもって描かれている中華商場については、同じく呉明益の『歩道橋の魔術師』を手に取っていただければと思います。こちらは近々河出文庫になります。